小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。近著に小説『ホライズン』(文藝春秋)。最新刊は『るるらいらい 日豪往復出稼ぎ日記』(講談社)
小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。近著に小説『ホライズン』(文藝春秋)。最新刊は『るるらいらい 日豪往復出稼ぎ日記』(講談社)
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ケニアのオル・ペジェタ自然保護区で最後のオスが死んだキタシロサイ (c)朝日新聞社
ケニアのオル・ペジェタ自然保護区で最後のオスが死んだキタシロサイ (c)朝日新聞社

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

【キタシロサイの写真】

*  *  *

 3月20日、地球上で最後のキタシロサイのオスが死んだというニュースが流れました。最後のオスとなった“スーダン”はケニアのオル・ペジェタ自然保護区で保護されていましたが、加齢に伴う合併症で衰弱し、やむなく安楽死に。これで地球上にはメスのキタシロサイが2頭残るのみとなり、保存された遺伝子を利用した体外受精などが検討されているそうです。

 目をつぶって横たわる巨大な“スーダン”に額を寄せる保護区の職員。死にゆくスーダンの胸を打つ写真は、涙のマークや哀悼のコメントがたくさんつけられて、SNSで瞬く間に拡散しました。私もその安らかな表情に目頭が熱くなりました。

 同時に、今日も人間に発見すらされずに絶滅していった生物が何種類もいるのだろうな……と、複雑な気持ちになりました。

 昨年12月に国際自然保護連合(IUCN)が発表した絶滅の危機にある野生生物は2万5821種。およそ1年前から2千種近くも増えています。これは人間の「食」にも影響するのだとか。地球温暖化で現在の作物がうまく育たなくなった時に新たな食料となりうる作物を見つけるためにも、野生植物の多様性が必要だというのです。

 世界自然保護基金(WWF)などの報告書によれば、このまま温暖化が進むと世界35の地域で動植物の半数が絶滅する恐れがあるとのこと。中でも私の住む豪州南西部とアフリカ南部の森林部の被害が大きいといいます。豪州南西部では海面上昇により哺乳類の81%、両生類の89%が絶滅するとも。WWFは、温暖化防止と生息地保全の両方の取り組みが必要だと指摘しています。

 今日も西豪州パースのビーチにはキラキラと透明な波が打ち寄せています。しかし飢えゆく星の、いつか沈みゆく街に生きていると思って眺めれば、海の青さに胸騒ぎすら覚えるのでした。

AERA 2018年4月16日号

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