海外での印象的な経験もある。3歳の息子をアメリカのナースリースクールに通わせたときのことだ。息子も含め園児たちは、毎日「今日は何をしたいか」を尋ねられ、お絵描きでも砂遊びでも、自分でその日することを決めなければならなかった。自己決定に慣れた息子が、しばらく後、日本の幼稚園に通うことになった。そこでは、お絵描きでも砂遊びでも、毎日みんなで同じことをする。息子は、「つまらない。ばかみたいだ!」と猛然と拒絶した。

「慣れていれば、自分で決断するほうが、自由で楽しいものです。が、自分で決めて責任を持つということ自体、いまの日本人には酷なのかもしれませんね」(同)

 一方で、確実に違う方向へ向かう世界がある。

 たとえば、政治だ。東京工業大学准教授で社会学者の西田さんは言う。

「どの政党もコストを割いて戦略を立て、政治の思惑を心地よく伝えられるよう情報武装しています。特に現政権は、ネットを用いたスマートな情報発信に注力してきました」

 だが、一般の生活者はあまりにも無防備だ。

「自分の読みたいものを読んでいたほうが、圧倒的に快適ですから、スマートに発信される情報をあえて読み解こうとは思いませんよね」(西田さん)

 もうひとつは、世を動かすイノベーターたちの考え方だ。彼らの共通点は、物事の本質を理解する総合的な知力「コモンセンス」と的確な判断力にある、と脳科学者の茂木健一郎さんは考えている。

「ハーバードやスタンフォードの面接で問われるのは、ペーパーテストの点数ではなく、学生のコモンセンスと判断力です。リベラルアーツ最先端の米アマースト大学は、入学者受け入れ会議の様子をネットで公開していますが、この動画を見ると、彼らが入学者を『コモンセンス』に基づいた『直観』で選んでいることがわかります」

 スペースX社のCEOイーロン・マスク氏は、現在進行中のニューヨークとワシントンをたった29分で結ぶ高速地下交通事業について、「空飛ぶ自動車はどうか」と聞かれたとき、即座に否定した。

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