部下のやる気を出させるには、どんな言葉をかけるのが正解なのか。脳科学の側面からみると、やる気のメカニズムが見えてくる。
「フィギュアスケートの羽生くんが『僕は……』と話し始めるとき、おそらくは頭の中に、自分自身の映像が浮かんでいる」
そう指摘する人がいた。『「すぐにやる脳」に変わる37の習慣』の著書がある脳科学者の篠原菊紀さんだ。
篠原さんによれば、人は自分の顔が一瞬浮かんだだけで「いい気分」になる。
「計算してやっているわけじゃないだろうけど、結果的に線条体をうまく刺激して、意欲を奮い立たせているんです」
脳科学的な「やる気」は、「ある行動をとろうとするときに、その行動の先に快感(いい気分)が予測されること」。この行動と快感を結びつける働きをするのが、左右の大脳半球の奥にある「線条体」という神経核だと篠原さんは言う。
例えば、机の上を片付けてみたら達成感があって、いい気分になったというケース。「いい気分」をもたらしたのはドーパミンという物質で、このとき分泌されるドーパミン神経の束は、「報酬系」「快感系」ともいわれる。「片付けをする→いい気分」が繰り返されると、この行動と快感の結びつきは強化される。
スポーツなら、「こんな練習をしたらうまくなる」と思うことができればやる気が出る。「こうやったらできた。だからまたやる」というのも同じ構造だ。
面白いのは、やる気にかかわるドーパミンも線条体も、外的要因に極めてだまされやすいということだ。根拠がなくても、
「自分は頑張れる」「いける」と思い込むだけで、線条体が働いてやる気が高まるという。
「線条体は、言葉にもだまされるし、その場の雰囲気にもだまされる。自分でしゃべったことや人に言われたことにも。暗示にかかりやすいのです」
と篠原さんは笑う。
思い切っておしゃれな洋服を試着したら、お店の人の「すてき!」の言葉にうれしくなって買ってしまった。こんな経験は、誰にでもある。「すてき!」の言葉に「買う気」という「やる気」が刺激されたのだ。