竹増貞信(たけます・さだのぶ)/1969年、大阪府生まれ。大阪大学経済学部卒業後、三菱商事に入社。2014年にローソン副社長に就任。16年6月から代表取締役社長</p>

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竹増貞信(たけます・さだのぶ)/1969年、大阪府生まれ。大阪大学経済学部卒業後、三菱商事に入社。2014年にローソン副社長に就任。16年6月から代表取締役社長
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竹増貞信「いまも胸に刻む上司の言葉」(※写真はイメージ)
竹増貞信「いまも胸に刻む上司の言葉」(※写真はイメージ)

「コンビニ百里の道をゆく」は、40代のローソン社長、竹増貞信さんの連載です。経営者のあり方やコンビニの今後について模索する日々をつづります。

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 みなさんには、心に残る「上司の言葉」がありますか。私は、三菱商事入社3年目に当時の上司に言われた言葉を、いまも深く胸に刻んでいます。

 畜産部で牛肉や豚肉の営業をしていたとき、当時の課長が「これまでの仕事のやり方は全部やめる。これからは選択と集中だ」と、現場の仕事を180度転換しました。

「選択と集中」は、GEの最高経営責任者だったジャック・ウェルチ氏の言葉として有名ですが、日本で注目を浴びたのは2000年代。それを1990年代半ばから毎日のように宣言し、現場で実践していたのが課長でした。

 やり方も徹底していました。それまでの、卸さん相手の「横の商売」からは完全に撤退して、全く販路がなかったスーパーや外食産業などに直販する「縦の商売」へと大転換を決行したのです。当時の販売会社も含め、それを徹底的に全国で実行し続けました。

 私も販売会社に出向していた経験があり、とにかくみんなと一緒になって、まずはスーパーの仕入れ担当者を回ることからスタート。最初は人脈もないので時間を持て余し、定時退社してとにかく飲みに行く毎日でした。でも、課長は動じなかった。「たとえ暇でも何もしなくていい。とにかくやるべきことだけをやる。目先のもうけ話にも乗らなくていい。10年後にはグループで一番もうかるチームになる」と。

 私も含めて営業はみんな暇だから、何回も同じ担当者の元に通う。すると、一つ、二つと取引先が増えていく。実績ができると、相乗効果で顧客が増えて、販売会社は数年で軌道に乗りました。そして10年後、本当にグループの稼ぎ頭になったのです。

「選択と集中」とはここまで徹底しなければダメなのだ、と学びました。すべてを捨てて新たにやるべきことに没頭できるか。上司の覚悟も問われる。当時の課長の見識の深さを実感しています。いま「捨てるべきこと」「やるべきこと」は何か。社長として、私も常に自問しています。

AERA 2017年1月22日号