前出のハンドボール部員の保護者は「本人が(暴力だと)思っていなければいいのではないか」と話したそうだ。だが、友田さんは断言する。
「暴力だと認識していなくても、お子さんの脳は悪い影響を受けます」
暴力や暴言は、生徒の未来にまでマイナスの影響を及ぼすということだ。食い止めるには、指導者こそが変わらなければならない。暴力根絶のために必要なのは、「コーチの育て直し」だ。
日本ラグビー協会コーチングディレクターの中竹竜二さん(44)は、コーチ育成の第一人者だ。ラグビー以外にプロ野球の横浜DeNAベイスターズやJリーグのチームからも依頼を受ける。「選手を成長させたいなら、まずコーチが成長しよう。コーチが変われば、選手が変わる」と指導者に呼びかける。中竹さんは言う。
「暴力を減らすことを目的にするのではなく、結果論として暴力が減っていけばいい。いい指導ができれば力でねじ伏せる必要はない」
カギは、選手の可能性を信じられるかどうか。
「信じられれば主体的に動く彼らを見守ることができる。それができないのは他者を信じられない人。裏返せば自分に自信がない人だ。愛情があれば暴力も暴言もOKなんて、今の時代は受け入れられない。暴力と認識される行為は絶対に許されない」(中竹さん)
コーチが子どもの可能性を信じたら強くなったという実例が12年に生徒が自死した大阪の高校バスケット界に存在する。12月23日開幕のウインターカップにも出場する大阪学院大学高校だ。実業団でプレーした後、04年から監督になった高橋渉さん(50)は、
「最初は選手のミスばかり責めていた。手が出ることもあった」
と振り返る。転機を迎えたのは、09年に初めて全国大会に出場したあとだ。10年もと意気込んだが、この年も翌年も全国行きを逃した。
「やり方を変えないと本当に強くはならないと感じた」(高橋さん)
試行錯誤するうちに、圧迫してやらせるのではなく、適切な練習法を丁寧に教えて意欲を引き出せば、生徒は自分の力で成長するのだと気づく。自分とは違う時代を生きる生徒が何を考えているのかを知ろうと、心理学の専門家の門もたたいた。怒鳴ることもやめた。チームは、12年からの6年間で5回、全国大会に出場した。