

経済専門家のぐっちーさんが「AERA」で連載する「ここだけの話」をお届けします。モルガン・スタンレーなどを経て、現在は投資会社でM&Aなどを手がけるぐっちーさんが、日々の経済ニュースを鋭く分析します。
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日本ではなぜか一方的に、ドイツは再生エネルギーの最先端で最高の成功例だ、という方が多くいます。一体何を根拠にそんなことをおっしゃるのでしょうか?
一方、メルケル首相は連立協議が失敗し、窮地に立たされています。報道機関はエネルギー政策で同意ができなかったことが原因とさらっと流していますが、実情は全く異なるのです。
そもそもメルケルの中道右派が先の総選挙で支持を減らした最大の理由は、彼女がやり始めた原発ゼロのいわゆる「エネルギー革命」において、自然エネルギー転換のコストがあまりにも膨大で、企業、国民から総スカンを食ったというのが実情なのです。
ドイツのエネルギー政策が世界最先端なら、なぜこんな選挙結果になるのでしょうか。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の記事によると、2000年以降、ドイツの企業、家庭が払ってきた電気料金は、通常のコストから1250億ユーロ!(16兆5千億円)も余計にかかっており、もちろんドイツ国民は現在、欧州最高の電気コストを払っています。さらに、不安定な再生エネルギーを補うために(曇りの日も発電しなければなりません)、なんと石炭の火力発電を増やしており、ドイツの発電量の40%がいまや火力発電となっています。資源エネルギーが多く使われているのが現実なのです。
結局、緑の党も、エネルギー革命をやめさせ、CO2(二酸化炭素)削減のために、少なくとも10基の火力発電所を閉鎖しろ、と主張して連立を離脱したのです。反イスラムを掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は、エネルギー革命の即刻停止を公約に掲げ、なんと13%の得票を得て大躍進しました。
これでは日本で言われるような、再生可能エネルギーの成功とは言い難く、この事例があるのに再生可能エネルギー、自然エネルギーを推進しろ、と言っている人が日本に多くいるのには唖然とします。
アメリカも同様で、オバマ大統領の下、莫大な再生可能エネルギーへの投資をしましたが、結局、あっという間に雲散霧消し、再生可能エネルギー開発の片手間に手掛けたシェール開発が成功し、今や世界一の原油生産国となりました。再生可能エネルギーだけで済むならだれも苦労しないのです。
※AERA 2017年12月4日号