ただ、それなりの結果を残して政権維持に成功すれば、首相の眼前には選挙前とずいぶん違う風景が立ち現れる。「9条改憲」には慎重ながらも政権に寄り添う公明党や、すでに改憲を訴えてきた日本維新の会に加え、新たに公然たる「改憲野党」として希望の党が加わる。これらで衆院議席の3分の2を占めることができれば、むしろ政権には好都合かもしれない。野党を巻き込んだ「広範な形」での改憲発議につなげる可能性ができるのだから。

 現憲法の公布70年を控えた昨年10月、共同通信が報じた興味深い世論調査がある。18歳以上の男女3千人を対象に郵送方式で行われた調査によると、憲法改正が「必要」「どちらかといえば必要」とする人は58%、「必要ない」「どちらかといえば必要ない」とする人は40%だった。

 ところが、現政権下での改憲を問うと賛否は逆転し、反対55%が賛成42%を上回った。これまでの政権の手法と性向への不信が根強いのは疑いなく、私もこれには深くうなずく。

 しかし、今回の総選挙はこうした民意と相反する情景が政界に現出してしまうおそれが強い。それは現憲法を「戦後レジーム」の権化として葬り去りたい者たちには吉事だろうが、戦後日本の歩みを破壊するという意味では最悪の凶事。つくづくと眼を凝らして投票行動を取らねば、遠からず深い後悔を迫られる。(ジャーナリスト・青木理)

AERA 2017年10月23日号より抜粋