「コンビニ百里の道をゆく」は、40代のローソン社長、竹増貞信さんの連載です。経営者のあり方やコンビニの今後について模索する日々をつづります。
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2017年はまだ2カ月半残っていますが、おそらく、今年最大のスポーツニュースは、陸上の男子100メートルで東洋大学の桐生祥秀選手が9秒98を出したことになるでしょう。
日本人には「高い壁」とされてきた10秒突破に、私も胸が熱くなりました。
それまでの桐生選手の自己ベストは高校3年生のときに記録した10秒01。実に4年以上の時間をかけて、努力を積み重ねた結果でした。その0秒03のために、どれほどの練習を繰り返してきたのか。想像すると、尊敬しかありません。努力を続けた根底には「自分なら9秒台を出せる」という強い信念があったはずです。
桐生選手ほどの大記録ではなくても、自分自身の「壁」を突破するには、「やれる」という思いと地道な努力が必要だろうと思います。それは、仕事でも同じ。毎日、基本に忠実に、同じことを地道に繰り返す。それがあるボリュームになったときに爆発して、「新たな領域」に足を踏み入れることができるのだと思います。途中であきらめなかった人だけが、突き抜けられる瞬間がある。月並みですが、「ネバーギブアップ」が勝利への早道なんですね。
今はランニングが私の趣味ですが、昔は走るのは苦手でした。サッカー部、ラグビー部時代も、走り込みは大嫌い。実戦的な練習をしないとうまくならないだろ、と斜に構えていました(笑)。
でも大人になるにつれ、基礎基本の中にこそ、奥深さや楽しみが潜んでいると理解できるようになった。繰り返すことでゆるぎない基盤を作り、単調な練習や仕事の中にも楽しみを見つけることで、モチベーションが維持できる。だから続けられる。続ければ、「壁」はきっと越えられる。どんな分野でも、有能な人はこのサイクルを作れる人だと思います。
桐生選手にとって、もはや9秒98は通過点。どんな「壁」も一度越えてしまえば過去のものです。次はどんなステージに向かっていくのか、考えるだけでドキドキします。
※AERA 2017年10月23日号