日常の異次元空間をほじくるお散歩ルポ。『ほじくりストリートビュー』の著者、能町みね子さんがAERAインタビューに答えた。
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懐かしい下町風景、レトロな建物、名所・旧跡を訪ね歩く……そんな「お散歩本」にあらず。行き止まり・どん詰まり、暗い袋小路、都会のけもの道・抜け道、傾斜、謎めいた構図の住宅地といった、どこにでもありそうでよくよく見るとどこか変な異次元空間。それが『ほじくりストリートビュー』だ。「散歩の達人」の連載をもとに編まれた44項目、写真とイラストと文章で構成された不思議な味わいの街歩きエッセイである。
たとえばこの写真、本書に登場する「新富町駅すぐの複雑な交差点」。東銀座からも歩いてすぐの中央区役所のそばに、なぜか<人のいなくなった未来っぽい>寒々しく殺伐とした風景が広がっていた。
「連載タイトルは『東京リアルストリートビュー』。ただ神奈川や千葉、群馬も出てくるし、単行本では変えたいなということであれこれ考えて最後に半分やけくそでひねりだしたのがこれです。でも名付けてみるとちょうどよかったかなと。取り上げたのはほじくっていて自分のツボが刺激されたところですね」
読み進めるとよくぞ見つけたなと驚きの連続だ。新宿駅のすぐそばの知られざる路地、麻布・高輪・広尾という三大セレブタウンにあるディープな路地と「ど下町」的風景、泉岳寺近くの奇っ怪な「激低」ガード下、新幹線の窓から見える神奈川県平塚市のメルヘン住宅群など、何やら秘境探検の気分を喚起する。
「基本は地図。地図を見ていて違和感を感じたところに行ってみる。初めてのスポットばかりですが中学生の頃から地図で気になるところを自転車で行ってましたから。いわゆる名所ではなく、人が住んで使っている日常的な場所、ここにずっと住んでいる人がいるんだなあと感慨にふけったりして。それから行き止まりやどん詰まりって普通はむなしくなって戻りますよね。でもこれが魅力的なんです」
なかでもインパクトが強烈だったのが、二子玉川の「スターバックス」。スタバ自体は普通だが、公園の中にあって西日に照らされると〈死後、最初に見る景色のよう。私はここを「死んだ後に見るスタバ」と名づけました〉と明言。
「二子玉川は居心地悪い街だけどここは面白かった。基本的に普通の散歩趣味人へのアンチテーゼもあるかも」
セレブなニュータウンや東京再開発の隙間から見えるダークな世界はまさに日本風景論の新たな境地か。能町探偵の今後の発見に乞うご期待。(ライター/田沢竜次)
※AERA 2017年10月2日号