ぐっちーさん/1960年東京生まれ。モルガン・スタンレーなどを経て、投資会社でM&Aなどを手がける。本連載を加筆・再構成した『ぐっちーさんの政府も日銀も知らない経済復活の条件』が発売中
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 経済専門家のぐっちーさんが「AERA」で連載する「ここだけの話」をお届けします。モルガン・スタンレーなどを経て、現在は投資会社でM&Aなどを手がけるぐっちーさんが、日々の経済ニュースを鋭く分析します。

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 アメリカはハリケーンの「当たり年」になってしまいました。テキサスを襲ったハリケーン・ハービーは、史上最大の被害を与えたと言われる2005年のハリケーン・カトリーナを超え、被害総額は20兆円になるという推計もあります。さらにフロリダに迫っているハリケーン・イルマはそれ以上に強烈で、本稿が出る頃にはその被害状況が明らかになっているものと思われます。

 この巨大ハリケーンがアメリカ経済に及ぼす影響は決して少なくありません。被害に遭われた方のことを考えると不謹慎と言われそうですが、まず、ポジティブな面。これで問題の債務上限問題は棚上げせざるを得なくなります。急に予算案が成立することは不可能でしょうが、債務上限を引き上げそこなうという最悪のリスクは、どの議員も(民主党も共和党も)避けざるを得ないという状況になりました。災害支援予算を考慮したいわゆる「つなぎ予算」は通さざるを得ません。

 一方で、ネガティブな面は、今回のハービーがテキサスを直撃しているということ。テキサスはアメリカのリファイナリー(石油精製所)の集積地です。原油からガソリンを作り出す工場が水に浸かって稼働が止まっているため、ガソリンの先物価格が急騰しています。リファイナリーという工場は実はハイテク技術の塊で、一度水に浸かってしまうと、それらのハイテク機器の入れ替えに相当の時間を要します。つまりそう簡単にガソリンの製造は再開できない。これはかなりの影響となることは間違いありません。ガソリン価格とアメリカの消費は、密接に結びついていることは統計上明らかで、ガソリン価格の上昇が長引けば、国内総生産(GDP)の70%を占める個人消費が打撃を受けるのは避けられません。カナダ、メキシコなどから緊急輸入するという手もありますが、いずれも北米自由貿易協定(NAFTA)などの交渉相手になっていることが重要。NAFTAの大幅な見直しを主張するトランプ大統領としてはここで妥協をするのかどうか、頭の痛い局面を迎えたといっていいでしょう。

 アメリカではこうした災害に対して間違った対応をして国民から総スカンを食らった政治家が多くいます。アメリカ国民は災害に対する対処に非常に敏感なのです。さてトランプはどうなりますか?

AERA 2017年9月18日号