●日本の美徳は消えた?
「そもそも」「本来は」と随所にとがめる言葉が見え隠れする。
「こういう攻撃は、ボディーブローのように効きます。しかも全員が読んでいるので、部下には『恥をかいた』という意識が残って、結局参ってしまう」(男性)
それから数カ月後、彼は部署を去っていった。こんなケースを、もう何度も経験してきた。
自身は、メールでやりとりするのは不毛と割り切り、電話を入れてフォローしたり、対面で話したりするようにしている。
「理不尽な思いをすれば、誰でも怒りは湧く。報告メールですら、長文化したり、角や力みは目立つ。相手がそれに反応すれば、収拾がつかなくなってしまうのです」(同)
秘書に「違うだろー!」と怒鳴ったり、You Tubeで家族への罵詈雑言を並べたり──感情を抑えきれず、溢れさせてしまう人が目立つ。謙譲と謙抑が日本人の美徳、という時代はもう遠い昔になってしまったのか。
そんな「感情決壊社会」をつくり出している大きな要因は、インターネットだ。パソコン通信、電子メール、SNS──コミュニケーションの手段はどんどん進化するが、文字だけのコミュニケーションは、対面や電話と比べて相手から得られる情報量が圧倒的に少ない。ネットのコミュニケーションに詳しい関西学院大学教授で社会心理学者の三浦麻子さんはこう話す。
「対面や電話なら、相手の声や表情を見ながら話すので、明確に相手から来た情報と実感ができます。ところが、文字だけだと、受け手が読んで自分の頭の中で再生して認識します。知らず知らずのうちに、相手より自分の解釈を優先させてしまうこともあるのです」
●もはや「仲間」はいない
自分の感情をのせて発信した情報であっても、受け手の文脈で解釈されてしまうと、誤解やミスリードが生じやすくなる。
そのうえ、ウェブ上で増幅される感情はネガティブなもののほうが多くなる、と社会心理学者で筑波大学准教授の湯川進太郎さんは語る。