中田卓也(なかた・たくや)/小学生から始めたギターで高校時代はバンド活動に熱中。大学ではシンセサイザーに親しみ、ヤマハでは自動演奏装置の開発に取り組んだ(撮影/編集部・大平誠)
この記事の写真をすべて見る

 何やら聴き慣れぬ音色が近づいてくる。奏者の姿は見えない。正体は、新たな展開をみせているAI(人工知能)。人間と協調して演奏し、わずか数十秒で作曲もするとか。AERA 9月4日号ではAI時代の音楽を見通すアーティストや動きを大特集。人間と音楽、そしてAIのトリオが奏でる曲とは、一体何か――。ヤマハの中田卓也社長に聞いた、AI時代の音楽と楽器の未来とは?

*  *  *

 作詞家や作曲家にとってはAIと勝負しなければならない局面が来るかもしれませんが、基本的には音楽の幅を広げ、我々業界のメリットになると思っています。

 キーボードでは30年ほど前から、指1本で伴奏をつけてくれるという機能があり、それによって演奏することへのハードルを下げられました。最近話題のAIはそのアシスト機能を、音を出すまでに相当な訓練を要するアコースティック楽器にまで広げる可能性もある。サクソフォンやトランペットのマウスピースを、簡単に震わせるような媒介装置を組み込めるかもしれません。

 一方で楽器には「弾けるようになった」という達成感の喜びもあるので、純然たる楽器も残っていくでしょう。

 音楽の聴き方で、昔の楽譜が生かされる余地もあると思います。「今日はビートルズをピアノ曲で、しかもモーツァルト風に聴いてみたい」というニーズがあれば、楽譜だけが流通して各家庭にある楽器のAIが自動的にアレンジして聴かせてくれるような時代が来てもいい。

 人間が発想する和声の常識を超えた新ジャンルを開拓してくれる期待もあります。1オクターブを12分割した平均律とは別の、人間に心地いいスケールを生み出すかもしれません。唯一の問題は、大量のデータから学習するディープラーニングは、プログラミングでいう「バグ」があっても修正が極めて困難なところですかね。いずれにしても、AIの流れは止まらないし、生かしていくほうが良い結果をもたらすと思います。

(構成・編集部・大平誠)

AERA 2017年9月4日号

[AERA最新号はこちら]