SNSの発達は、パブリックとプライベートの境目を溶解させたのか。高度なコミュニケーションスキルが必須となった(撮影/今村拓馬)
SNSの発達は、パブリックとプライベートの境目を溶解させたのか。高度なコミュニケーションスキルが必須となった(撮影/今村拓馬)
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 相次ぐ政権の不祥事、押し寄せるSNS圧。批判なき政治を目指す政治家に、笑えない芸人。怒る気力も失われ、何もかもが面倒くさい。この不機嫌と無気力は、いったいどこからやって来るのか。AERA(2017年8月14-21日号)では「日本の境界線」について特集。いまこの国を覆う不機嫌の正体について考える。

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 都内の私立高校。1年生のクラスでは、生徒たちがみな下を向いて静かにペンを走らせていた。授業でもテストでもない。秋の文化祭でクラスの出し物を決める、学級会でのことだ。それぞれやりたいことを紙に書き、文化祭実行委員が回収。後日、みんなで検討するという。Aさん(15歳・女子)は言う。

「何かを決めるとき挙手制だと意見が出ないので、今はもうほとんどこのやり方です。『アイデアを出してくださ~い』『はいは~い』ってその場で活発な議論になることはありえない。だって反対されたり論破されたりしたら嫌じゃないですか」

 反対されると、「意見」ではなく「私自身」を否定されていると受け取り、「ムッとしちゃう」そうだ。批判されるリスクを避けるため、多数決を取るときも手を挙げない生徒も多い。

 同じクラスのBさん(16歳・女子)が驚いたのは、体育祭や文化祭でクラスみんなで着る「クラスTシャツ」の委員になったとき。デザインをアンケートで募集すると、女子10人が全く同じものを描いてきたという。

「誰かと同じじゃないと安心できないんだろうなぁって。でもその感覚はすごくわかる」

 黒髪に膝丈のスカート。ナチュラルメイク。外見も内面も「波風を立てない」ことに気を配っている。

 AさんのLINEには、取材の日、60通もの未読通知がたまっていた。理由は、こうだ。

「相手の反応を予想しながら返信を考えるなんて面倒すぎる」

●未読スルー当たり前

 メッセージを送って既読になっても返信がないことを嘆く「既読スルー」はもはや死語。女子高生たちの定番は、この「未読スルー」だ。インスタグラム、ツイッター、スナップチャットなど複数のSNSを使っているため“うっかり”見逃しているという体にもできるし、スクリーンショットを撮られて拡散される可能性のあるLINEではそもそも重要なやり取りはしないため、これで関係がギクシャクすることはない。

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