●他者との出会いが刺激
担当編集者として日野原さんのカリスマ性の背景を問われたなら、医師としての経験に根ざした「人間観察力」と「コミュニケーション力」と答えたい。たとえば、12年6月のエッセーでは、スピーチのコツについて、次のように書いている。
「聴衆の層、すなわち年代や男女の割合をよく見て、何かスマートでユーモアに富む言葉をしゃべろうと心がけます。笑ってもらえば、しめたもの。笑いを端緒に聴衆との間に親密なコンタクトが生まれます。(中略)前列の笑顔の女性には、『あなたの笑顔はすてきですね』とほめます。誰かと会話する時、お互いに笑顔なら、2人の関係は更に親密になるもの」
実際、日野原さんはよく私を「あなた、本当に聞き上手だから」などとほめてくれた。ヒマワリのような笑顔で、その時ほめてほしい「ツボ」を「不意打ち」されるので、お世辞と思ったことは一度もない。笑顔の奥の観察眼で、相手の欲するものをとらえ、超高性能コンピューターのような頭脳で応答することなど朝飯前だったのだ。
思えば、老若男女問わず、他者と出会い、刺激を受けている時、日野原さんのオーラはいよいよ若返るように見えた。人間は他者に与えながら、自分自身もまた何かを得られるのだ。だからこそ手帳を予定でビッシリ埋め、全国を行脚して聴衆を笑顔にし、病床の人の手を握り、医師であれ、編集者であれ、若い世代をほめては、そのやる気を引き出していたのだろう。
「上司にしたい有名人ランキング」の候補に、「女性が輝く社会」のキーマンに。ご存命のうちに推薦しなかったことが、悔やまれてならない。
(朝日新聞文化くらし報道部・寺下真理加)
※AERA 2017年7月31日