12年からは、棋士とコンピューター将棋との真剣勝負の場である、電王戦が始まった。一般社会の多くの人々がコンピューター将棋を目の当たりにした時には、既にその強さは圧倒的だった。トータルの結果は、コンピューター将棋側の大幅な勝ち越し。17年には、山本一成(現・愛知学院大学特任准教授)らが開発した「PONANZA(ポナンザ)」が、人類トップの佐藤天彦名人を、2連勝で降している。将棋という分野においては、いまや名実ともに、コンピューターは人間を上回った。

 将棋界の長年の夢だった、神の存在に近づくコンピューター将棋の誕生は、皮肉なことに、人間の世界に、暗い影を落とすことにもなった。

 16年に起こった一連の「不正疑惑騒動」は、将棋界に、かつてないほどの深刻な衝撃を与えた。一流棋士である三浦弘行九段は、「竜王戦挑戦者決定戦などで、スマートフォンを介して、何らかの手段でソフトにアクセスし、指し手を参考にして、勝利を得ていた」という疑惑を持たれる。その結果、竜王戦七番勝負の挑戦者が交代し、三浦九段の公式戦休場につながるという、前代未聞の事態へと発展した。

 多くの善意の将棋ファンは、三浦九段の無実を信じて、声援を送った。第三者委員会の検証によれば、三浦九段を告発する側の論拠が不十分だったと、明確に結論づけられた。当時の将棋連盟執行部は責任を追及される形で退陣し、新会長・佐藤康光以下、新体制へと移行した。

「三浦九段の疑惑は晴れており、これからもより周知に努めます」

 三浦九段と将棋連盟との和解が発表された記者会見で、佐藤は、そう強調した。一般社会から、将棋界全体がネガティブなイメージを持たれてしまったのは痛恨だった。

●棋士の存在意義を再認識 藤井四段の今後の活躍は

 重い暗雲が垂れ込めていた将棋界に、藤井聡太は、まるで救世主のように登場した。藤井の将来の可能性を否定するファンや関係者は、ほとんどいなかった。しかしデビュー以来無敗の29連勝という、奇跡のような活躍ぶりと、それにともなう、過去に例のないほどのフィーバーは、半年前には、誰も想像できなかったはずである。

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