親の看取りは誰しもが経験するもの。しかし、ゆっくりと最期のお別れをすることができなかったと、後悔する人は多い。まだまだ元気だからと、話し合わずにいると、その日は急にやってくる。お墓のこと、相続のこと、延命措置のこと、そろそろ話し合ってみませんか? AERA 2017年7月10日号では「後悔しない親との別れ」を大特集。
親の死を乗り越え、受け入れ、立ち直る看取りを経験した著名人に、親の死との向き合い方、実務上で苦労したことなどについて聞いた。今回は、劇団こまつ座、社長の井上麻矢さんです。
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「とても複雑で特殊な家族でした」と語る井上さん。2010年に亡くなった父親は『太鼓たたいて笛ふいて』や『吉里吉里人』などの戯曲や小説、エッセイ、児童文学などで知られる井上ひさしさん、母は日本子守唄協会理事長の西舘好子さん。
「物心ついたときには父は売れっ子作家。両親は身を削るように働いて作品を世に送り出し、子どもとはいえ大人の世界に踏み込むことは許されなかった」 そんな家族が崩壊したのは麻矢さんが19歳のとき。
「父と母、どちらからも何の説明もないままに離婚が決まり、私たち姉妹の立場は宙ぶらりん。両親それぞれ再婚して。複雑でしたね。頭では理解できても気持ちが追いつかなかった」
親への反発から演劇とは無縁の世界で身を立てようと奮闘していた矢先、父親から「劇団を手伝ってくれないか」と声がかかった。
「不思議と嬉しかった。父の仕事を誇らしく思っていた自分が、まだ残っていたんですね。止まっていた親子の時間が再び動き出したような気がしました」
麻矢さんが劇団に加わって1年で父は他界してしまう。肺腺がんだった。がん発見から半年ほど経った10年4月、妻と息子(麻矢さんの異母兄弟)、そして麻矢さんが看取る中、息を引き取った。