●自分は「しくじり先生」

 壊疽の進んだ右足を切断。その時も友人たちが駆け付けて見舞った。手術後のリハビリ施設や人工透析クリニックは、彼らが区の福祉担当者、病院のソーシャルワーカーと支援態勢を構築し、決めていった。そのとき長谷川さんは「彼らに支えてもらっていることに気づいた。自分ひとりで悲劇の主人公やってる場合じゃない」。

 だんだん気力がわいてきた。そして自分は「しくじり先生」なんだと気づいた。

「僕の失敗を見て学んでほしい。だけど同時に、しくじっても大丈夫だということを今、伝えなければ」

 単身、高齢、障害、HIV。再び自分の今を伝える生き方を長谷川さんは歩み始めている。

●「任意後見契約」を推奨

 人権法や同性婚が認められない中で、性的マイノリティーとしてのライフプランをどう構築していくか。行政書士でファイナンシャルプランナーの永易至文さん(50)は「モデルケースがないなら、自力で作り出そう」と考えた。上の世代は自身の性的指向を偽って結婚するのが当たり前だった。社会に声を上げることも大事だが、それですぐに制度が変わるものでもない。性的マイノリティーとして一生を生きることを決めた人が、「現実的に、今ある制度を使って自分の生活をよりよくする方法を模索したい」と思い、資格を取って事務所を設立した。

 とりわけパートナー同士に推奨しているのが「任意後見契約」だ。判断能力が衰える前に、あらかじめ自分でパートナーに医療や介護の選択や財産の管理を託すもので、契約は公正証書にする。契約を結んだ段階で、第三者に対し「私はこの人の任意後見受任者である」という法的な立場を主張できるようになる。こうすれば、緊急事態の時に、親族でなくとも医療従事者にパートナーだと主張できる。

「『医療における意思表示書』と合わせれば更に効果的」と永易さん。事務局長を務めるNPO法人「パープル・ハンズ」ではこうした法務にまつわる相談のほか、老後に向けての勉強会、40代以降の当事者が集まる友達づくりの場も提供している。

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