ゴンドラを使えないタワーマンションもある。ニューヨークの摩天楼に似せた尖塔型や、東京都庁舎のような凸凹の多い超高層はゴンドラを吊りにくい。てっぺんに登って作業をする命知らずの職人はそうそういない。

 加えて、タワーマンションは膨大かつ複雑な設備機器を抱え込んでいる。これらが大規模修繕と同じころに傷んでくる。
「タワーマンションの設備は特殊です。エレベーターや空調、給湯、照明、セキュリティーなど最先端の便利なものが好まれる。新築から5年、10年と経つうちに設備も劣化、陳腐化します。古くなったら更新しなくてはいけない。この更新が大ごとなのです。費用面では、外側を直す大規模修繕をはるかにしのぐ。莫大なお金がかかります」

 つまり、タワーマンションでは「大規模修繕+設備更新」をトータルに最適化しつつマネジメントしなくてはならない。この新しい取り組みを「計画修繕」と山口氏らは呼んでいる。

「タワーマンションの計画修繕は未知の領域です。管理組合と管理会社、設計や施工の会社が緊密にコミュニケーションをとり、一体となって取り組まねば不可能」と山口氏は言う。

 では、実際のタワーマンションは、この難局にどう立ち向かっているのだろうか。現在、大規模修繕の真っただ中にある東京湾岸の超高層マンション(1千戸規模)を訪ねた。

●建てた本人を引き込む

 見上げると、建物のほぼ中層、25~26階に外壁タイルの補修や、ベランダの防水作業を行うゴンドラが止まっていた。

「上下2階分の作業を終えるのに夏場で3週間、冬場は塗料が乾きにくいので4週間かかります。全体で2年ですね」

 と、管理組合の大規模修繕担当理事、橋本友希氏(58)が説明してくれた。橋本氏は大手不動産会社に31年勤め、設計者として超高層建築に携わり、再開発事業ではマネジメント業務も担当した。タワーマンションの住民で、建築の設計、管理運営のプロでもある。予算約15億円の大規模修繕を牽引している。

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