日本にマンションが誕生して60年以上。今も年に10万戸ずつ増えている。たが一方で、建物と居住者の「二つの老い」や運営管理への無関心などにより、荒廃するマンションが急増している。何が起きているのか。防ぐ方法はあるのか。AERA 5月29日号では「限界マンション」を大特集。
タワーマンションの大規模修繕は難易度が高い。斬新で実験的な工法や材料などを使っていることが多く、住民の合意形成も難しいからだ。
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超高層タワーマンションに大規模修繕の波が打ち寄せている。建築規制の緩和を追い風に2000年代前半、次々と建てられたタワーマンションが、築後15年前後の大規模修繕期を迎えた。ただし、高さが100メートルを超えるようなマンションの大規模修繕は一般的なそれとは様相が異なる。
通常の大規模修繕は、イベント的にとらえられがちだ。建物の周りに足場を組んで、共用部分の外壁やベランダ、屋上などを補修する。イベントを乗り越えたら、しばらく建物は安泰。何か不具合が生じれば、そのつど直せばいいと思われてきた。
しかしタワーマンションには、この考え方が通用しない。アプローチの仕方、発想の大転換が求められているのだ。
●ゴンドラを使えない
設計事務所と調査診断会社で構成する建物診断設計事業協同組合(建診協)の山口実理事長(66)は「常識を捨てたほうがいい」と言う。山口氏は建物改修で四十数年の経験を持つ。技術書を多数著し、タワーマンションの大規模修繕をいくつも手がけてきた。その山口氏をして、わからないことだらけだという。
「超高層は、工法、材料、システム、どれも斬新で実験的なことを採り入れています。一つひとつ、全然違う。最近は、地震関連の技術導入がはやっている。ですから、標準的な修繕方法はありません。現場ごとにゼロから方法を編み出すのです。足場の代わりのゴンドラだって建物に応じて、つくりかえます」