「洗濯機置き場はこっちに持ってきたほうがいいよね」
「共同の家庭菜園を作って、野菜を食堂で使うのはどう?」
「小森谷さんみたいに料理ができる人は、食堂で働くとか、入居者が掃除でもなんでも得意なことを生かして、ちょっとしたお小遣い稼ぎができるといい」
●夫の介護も移住先で
山中さんが「上の階に、本物の富士山を見ながら入れる銭湯を作るというのもありかな~なんて」というと、皆の表情が一気にほころんだ。
「いいですね、銭湯」
「入居者だけじゃなくて、近所の人も入れるようにするといいかも」
この日の参加者の中で積極的に意見を出していたのが、2005年に東京・世田谷から移住した編集者の賀川一枝さん(55)だ。都留には、グラフィックデザイナーだった夫の督明さんと、犬を自由に遊ばせられるセカンドハウスを求めてやってきた。それまで何の関わりもなく、たまたま貸地として山あいの土地を紹介されたのがきっかけだ。当初は週末だけ来て夫がログハウスをコツコツと建てていたが、自然に囲まれた環境が気に入り、本格的に移り住んだ。
最初は夫婦と犬で楽しく暮らせればいいと、あまり周囲に関わることもなかった。ところが、水に関する機関誌の編集の仕事を通じて、都留の水の歴史や魅力を知り、市役所の職員とつながりを持ったことから、一気に人の輪が広がったという。
「自分から動き出してみると、田んぼや畑もタダで貸してもらえるし、何か呼びかけると何のトクにもならないのにすぐに手を挙げてくれる人が多い。都留の人はどうしてこんなによそ者を受け入れてくれるのかとびっくりしました」(賀川さん)
賀川さんは、よそ者にオープンな都留の土地柄は、かつて養蚕や織物産業で栄え、モノや人の流れが絶えなかったという歴史と、都留文科大学の存在によるところが大きいとみる。
「町の人にとって学生はよそ者だけど、アパートを借りてくれる大切なお客さんでもあるのでとても可愛がる。学生も町の人を第二のお父さん、お母さんと慕うという温かい関係があるんです。文科大には地域に貢献したいという真面目で熱い子が多くて、うちにもしょっちゅう泊まりに来て、一緒に畑をやったり、ご飯食べたりしてますよ」