アエラの連載企画「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回は加茂の「ニッポンの課長」を紹介する。
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■加茂 富士花鳥園 副園長 宮本正明(46)
富士山のふもとで、約65種類330羽の鳥が暮らす富士花鳥園。とり年の今年、かわいい小さなフクロウ2羽が入り口で出迎えてくれる。
副園長の宮本正明は、開園前に全ての鳥を見回り、滞りなく一日を送ることができそうか確認をするのが毎朝の日課だ。「ゲゲ」と鳴きながら近づいてくるフラミンゴには、「ゲゲ」と返事。翼を広げた姿を披露してくれると、「かっこいいね~」と声をかける。
「鳥たちは人の顔を覚えます。鳴き声をマネすることで、心理的にも物理的にも距離が近づく感じがします」
宮本はお隣の静岡県富士市出身。元々動物好きだが、最初は動物関連の仕事に就くつもりはなかった。工業高校を卒業後、手に職をつけようと1988年に電機メーカーに就職。機械を相手に働いてみて気づいたのは、「動物が好き」という本当の気持ちだった。ちょうどそのころ、花鳥園がスタッフ募集をしていて、応募した。
99年の入社から半年間、フクロウの飼養管理を担当した。おとなしいとはいえ、小動物を食べる猛禽類。フクロウの中で最も握力が強いアメリカワシミミズクを捕まえようとしてうまくいかず、腕に装着した革グローブを鋭い爪が貫通したこともあった。
エミューを担当したときは卵の孵化にも挑戦した。エミューは、自分の娘と同い年のものもいて「縁が深い鳥」。2年ほど前に副園長になっても、エミューの担当は続けている。
休日はバス釣りや、始めたばかりのエレキギターの練習を楽しむ宮本だが、自宅ではやはりインコを飼っている。妻も鳥好きだ。
「でも、娘はその反動か鳥はイマイチで、『アイタタ……』という感じです」と苦笑い。
顔見知りになったリピーターに、好きな鳥の好物のエサを渡すなど、人への心配りも忘れない。
宮本をはじめとする園スタッフの優しいまなざし。鳥たちが安心して甘える様子は、大家族を見ているかのようだった。
(文中敬称略)
(編集部・小野ヒデコ 写真部・東川哲也)
※AERA 2017年1月16号