ドラマでは校閲者と著者が顔を合わせるシーンがあるが、現実ではほぼないという。
「われわれは第1読者であり、先入観なしで読み始めます。アノニマス的な存在であるからこそ、出せる疑問があります」
編集者は著者に寄り添い、校閲者は読者側に立つ。立場は違え、双方の目的は「本をよりよくすること」だ。間違いを見逃さないことは大前提だが、校閲者が間違いの指摘だけを目的化してしまうとよい本は作れない。
校閲に求められることは何か。森さんによると、一つは知識の量より、その知識が正確にどこで手に入るかを知っていること。もう一つは“かけひき力”だという。
校閲の指摘を採用するか否かの判断は、最終的には編集者と著者次第。森さんは、最初に肝心な質問を投げかけ著者の信頼を得てから細かいところの指摘をしている。すると、全体での校閲指摘の採用率が高くなるのだという。いかに指摘をくんでもらえるかまで緻密に計算しているのだ。だが納得がいかないことがあったとしても、著者が「ママ」(そのままで)と言えばそれまで。それが校閲という仕事だと森さんは笑って話す。
「押し引きができないとよい校閲者にはなれないかな。でも、それが楽しみでもありますね」
制作サイドは賛否両論を、どう受け止めているのだろうか。
「もちろんわかったうえで演出をしています。事前に合計20人ほどの校閲の方に取材しました」
そう話すのは本作のプロデューサー、日本テレビ制作局の小田玲奈さん(36)。テレビ局で校閲の役割を担うのは、考査という部署だ。考査という存在を強く意識するようになったのは、直接関わる機会が増えたプロデューサー職になってからと言う。
「ダメ出しだけではなく、セリフなどに対しての代替案も出してくれます。それでも、『ここでズバッと言わないとヒロインとしてかっこよくない!』などのやりとりはあります」
●「そこまで?」と驚き
校閲のリサーチをする中で、好きでこの仕事をしている人が多いと感じた。その半面、口をそろえて言われたことは、「私たちの仕事はドラマになりませんよ」ということだった。
「でも話を聞くと内に秘めた情熱を感じました。『そんなことまで調べる!?』ということまで本気で考えているところが面白く、ドラマになると思いました」
背景には小田さん自身の経験も含まれている。入社後、希望したバラエティー担当になり、楽しく仕事ができていた。しかし、自分が望む仕事をピンポイントでできている人は世の中多くないのでは……。はじめは望んだ仕事ではなかったとしても、一生懸命に頑張るうちにその面白さややりがいに目覚める主人公の境遇は、世の中の働く女性に刺さるのではないかと考えた。
「こういう仕事もあるのだと、来年、出版社の校閲志望の人が増えたらうれしいです」
(編集部・小野ヒデコ)
※AERA 2016年11月14日号