ドラマの影響で一気に注目を集めている校閲者というお仕事。実際の校閲者はどのように見ているのだろうか。本誌の校閲担当者に話を聞いた。
日本テレビ系で放送中の連続ドラマ「地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子」が話題だ。視聴率は初回12.9%から始まり、5話が終わった今も好調。ストーリーは、ファッション誌の編集者を目指す河野悦子(こうのえつこ、略してコーエツ)が出版社に採用されるも配属は「校閲部」だった、というところから始まる。
校閲とは、書籍や雑誌などの文章や内容のチェックを行うこと。99%間違いを指摘しても、たった一つでも見落としてしまうと、そこがクローズアップされてしまう。そのため、常に「100%」が求められる職業。出版社のなかでもとりわけ職人気質の集団だ。われわれ記者にとっては頭が上がらず、一番嫌われたくない方々。ドラマについてウェブメディアやSNSなどでは、校閲者への感謝から、事実と異なるという批判的なものまで賛否両論がある。実際のところは、どうなのだろうか。
●ウチでは採用!
「ウチは河野悦子を採りますね」と言うのは、朝日新聞総合サービス出版校閲部長の藤井広基さん。「ウチでは採らない」との新潮社校閲部長の談話が「週刊新潮」で報じられたが、意外な回答だ。
「校閲というと暗いイメージがあるかもしれませんが、校閲こそコミュニケーションを取るのが大切。編集者と積極的に相談するよう言っています。また、当初は編集希望でも校閲にハマった人を何人も見てきています」
ドラマ第1話では、橋の名称の確認をしに、河野が現地へ行くシーンがある。「ありえない」と批判もあった箇所だが、実際に休日を利用し、現地へ足を運んだ校閲者がいたと藤井さんは証言。その時は小説に登場する美術館の展示室の位置関係が違っていたことが判明したという。
校閲者の“職業病”について聞いてみたところ、(1)眼精疲労(2)腰痛(3)腱鞘炎とのこと。(1)と(2)は理解できるが、なぜ(3)が?
「校閲する際、単に黙読するのではなく、必ず鉛筆片手に、読んでいる文字の横をトントンとマーキングしながら読むので、利き手は酷使するんです」
本誌担当のAさんは、「トントン」だけは利き手でないほうでもできるようになったという。また、プライベートでの本の読み方が変化したという人もいる。ムック本担当のBさんは、以前は通勤時間が読書タイムだったが、「最近はボーッとして、きょう一日読んだ原稿を忘れる時間にしています」。同じくムック担当のCさんは「目で追ってじっくり読むようになったので、読むペースが遅くなりました」と言う。
「『地味にスゴイ!』というのはうれしい。読者にはわれわれの存在が見えなければ見えないほどよいので」と話すのは「岩波文庫」などで知られる老舗出版社・岩波書店の制作局校正部部長の森裕介さんだ。
「リアルに校閲の職場を描いたドラマにすると『シーン』として放送事故になるんじゃないかな(笑)」
その言葉通り、実際の校閲部は電話もほとんど鳴らない。
●校閲とは“かけひき”
出版業界の売り上げは右肩下がり。校閲の人員も減らされる傾向がある。だが、データ入稿が一般化し、印刷所での入力作業に由来する誤植は減ったとはいえ誤字脱字チェックは変わらず重要な作業。そのうえ、インターネットの普及によりファクトチェック(内容のチェック)に求められる作業量も増大し、全体の仕事量は増えているという。