糸井重里(いとい・しげさと)/1948年生まれ。71年コピーライターに。西武百貨店「おいしい生活。」などの広告で知られる。98年から毎日ウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を更新し「ほぼ日手帳」は定番に。犬や猫と人が親しくなるアプリ「ドコノコ」をリリース (c)朝日新聞社
糸井重里(いとい・しげさと)/1948年生まれ。71年コピーライターに。西武百貨店「おいしい生活。」などの広告で知られる。98年から毎日ウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を更新し「ほぼ日手帳」は定番に。犬や猫と人が親しくなるアプリ「ドコノコ」をリリース (c)朝日新聞社

 この問題を自分から語るのは、すごく難しいですよね。二重性のあることばかりで、簡単には解決しないと思います。

 たとえ同じ経験をしても、ある人は「つらい」と言い、別の人は「楽しかった」と言うかもしれません。どうしても自分でやりたい、仕事をしたくて仕方ない、という経験のある人もいるでしょう。最後は、主観が問われるということになってしまうんだと思います。

 それを否定せず、過剰な労働をなくすにはどうすればいいのか。

●寝食を忘れて働いても健全な人に追い抜かれる

 法律は、より多くの人が幸せになる道を選びます。会社も「作ってくれた法律を守ります」「守らないと怒るよ」といって、キープする。できることは、永遠に次善の策で、時代を超えて成り立つ考え方は、次善の策を積み重ねていくほかないと思います。

 でも、ひとつだけ言いたいことがあります。ちゃんとメシ食って、ちゃんと風呂に入って、ちゃんと寝てる人には、かなわない、ってことです。

 ぼく自身散々無茶(むちゃ)もやってきたけど、40代になってから、そういう健全な人が目に入るようになりました。大人数で会議をすると、目立つタイプではないけれど穏やかで、話してみるとよく考えている人がいるんですよね。その人がチームにいるのは、皆がいてほしいからなんです。

 寝食を忘れ無理して働けば、瞬発力で花火を打ち上げるようなことは誰にでもできるかもしれません。でも、ものごとには波があって、ダメかもしれない時期も、いまだ、進め!という時期もあります。健全な人がその波を渡っていく。だんだんと、自分がそういう人に追い抜かれていくのを想像するようになるんです。寝ないで無理すれば、大抵お酒が絡んできます。無頼を気取って飲んだくれている人を、健全な人が追い抜いていくんです。

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