「グレートジャーニー」の探検家・関野吉晴が学生と面白いことをやっているらしい──。そう聞いた監督の前田亜紀は、彼らの一年をドキュメンタリー映画にすることに。そこで見たものは……?
2015年4月。武蔵野美術大学の課外ゼミ、通称「関野ゼミ」の説明会に200人の学生が集まった。関野吉晴が出した課題は「カレーライスを一から作る」
「野菜、米、スパイスも自分たちで作る。もちろん肉も」と説明する関野に、学生から声があがる。「魚介カレーじゃだめですか?」
なぜ、カレーライスなのか?
「ラーメンでも八宝菜でもなんでもよかったんです。物事の最初はどうなっているのか、それを探ると社会が見える。それを学生たちと探ろうという試みです」と関野は言う。
●一から作り社会が見える
かつては太古の舟を一から作るために、海岸で砂鉄を集め「たたら製鉄」から行ったこともある。カレーを作るゼミは前年に続いて2回目だ。
学生たちはまず種を買い、畑を耕す。化学肥料や農薬を使わない無農薬栽培への挑戦だ。成長の遅い野菜を見る1年生の男子からぼやきが出る。「効率が悪すぎる……。化学肥料、使っちゃダメですか」
「最初はおもしろがる学生たちも、実際は続かないんですよね。ちょっとやって『こんなものか』となってしまう。逆に続いてく子はすごいなと思いました」
監督の前田亜紀はそう一年を振り返る。最後まで参加した学生は30人。実質、作業をしていたのは常時10人に満たなかった。
「いまの学生は10年前と比べて『損得』で考える子がすごく多い。すぐに『何か資格が得られるの?』『就職に有利なの?』って。それでも『別に役に立たなくても、おもしろければやりたい!』という子たちが、最後に残るんですよ」
と、関野は嬉しそうに言う。化学肥料を使いたいと文句を言っていた彼は、いまや後輩のよき指導係へと成長したそうだ。