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 女性?それともオトコ? ……実に妖しい声の持ち主、ささやく様に呟くように、けだるく歌うヴォーカルがこのトランペッター最大の魅力。一部には薄気味悪い白痴的オカマ・ヴォーカルと評する向きもあるようですが……。

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 いずれにしてもチェットはあくまでトランペット・プレイヤーであり、その超がつくほど個性的なヴォイスの陰の魅力的なプレイを見(聴き)落としてしまいがちな事に注意しなくちゃいけません。

 ジェームス・ディーンをホウフツさせる容姿とその若さで、'50年代半ばにはあのマイルスを抜いて米ジャズ誌の人気投票でトップを奪ったこともあります。

「イン・パリ」「シングス」などの人気アルバムをリリースして絶頂期を迎えたのだけれど、この頃もう一つの代表作「プレイボーイ」でも共演したアート・ペッパーが麻薬によって1953年に投獄され、'59年にチェットも同じ麻薬癖によって刑務所に送られて引退してしまいました。

 ジャズ、酒、女そして麻薬体験を描いた映画「レッツ・ゲット・ロスト」はモノクロームの映像の中にチェットの半生が赤裸々に語られた興味深いドキュメント・フィルムです。

 この映画のポスターに使われ、同名のアルバム・ジャケットにもなった写真、いくつも折り目がついて傷み、黄ばんで破れかかった写真。ブルース・ウエーバーが写したチェットのその顔には老いと共に深いしわが刻まれ、栄光と破滅の人生を語っているような切なさが伝わってくる、好きな写真の一つです。

 '86年にたった一度来日した時、ステージ上のチェットを撮影しました。

 静かに椅子に腰を下ろして、静かにトランペットを吹く。静かに歌いそして演奏の合間にはラッパを膝に下ろして静かに目を閉じていました。頬のこけたしわくちゃの顔はあの映画のポスターそのままでした。

 アムステルダムで宿泊していたホテルの部屋の窓から転落して死んだのはそれから2年後の事。

 原因は謎とされていますが…… いかにもチェットらしい死に方だと思うのは、僕だけでしょうか?

チェット・ベイカー:Chet Baker (allmusic.comへリンクします)
→トランペット、ヴォーカル/(1929年12月23日~1988年5月13日)