ガウスは扱わなかったが、「素数の規則」をすべて含んでいるだろうと思われる関数が、その前から存在する。「ゼータ関数」、ζ(s)である。

 それは、自然数(1、2、3……)の逆数(1、1/2、1/3……)の累乗(1/nのs乗)を、1から無限個足し上げたもので、累乗(s)を変化させるとその足し上げた値がどう変化するか(つまり関数)を考えていたのは、スイス生まれの18世紀最大の数学者レオンハルト・オイラーだ。

「息をするように数学をした」といわれるオイラーは、無限個の足し算に異常なほどの愛情を注いだ。sが2のときのゼータ関数(つまり1/nの2乗の和)の値に円周率πが登場するという不思議な事実を見つけた彼は、ゼータ関数を徹底的に調べ、1737年、この式が、すべての素数(p)について式を掛け算した形(オイラー積=数式の最も右側)に書き換えられることに気がついた。これが、ゼータ関数は「すべての素数についての情報を持っている関数」と数学者が気づいた最初だった。

●追い求めた「素数公式」

 オイラーの研究をさらに深めたのが、19世紀にあらゆる数学の思考の枠組みを変革したとさえいわれるドイツの大数学者ベルンハルト・リーマンだ。

 1859年、33歳のリーマンは、わずか9ページの論文「与えられた数より小さい素数の個数について」を発表した。この中に「ζ(s)の自明でないゼロ点は、すべて複素平面上で実部が1/2の直線上に存在する」と予想する(つまり結果だけで証明はしていない)1行を含んでいた。これが後に多くの数学者を悩ませることになる「リーマン予想」である。

 リーマンは、オイラーが正負の整数に対する計算でとどめていたゼータ関数のsを、実数から(あの虚数iを含む)複素数へ広げていた。さらに、得意の解析学を駆使して、前記の論文中でx以下の素数の個数を計算する厳密な公式を導いている。

 ゼータ関数についての日本の第一人者、東京工業大学教授の黒川信重がこう解説する。

「リーマンが知りたかったのは、素数そのものを精密に求める『素数公式』だったのです。その公式を成立させるためには、素数の情報を内蔵しているゼータ関数がどこでゼロになるか、という研究が必須でした」

 リーマンは、その後も素数について研究を続けていたらしいが、39歳で亡くなり、その分野に関する論文は先の1本しか発表しなかった。その後の数学者に託されたのだ。

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