このことが、フィンランドという国の経済と人々の心に与えたダメージは計り知れない。フヤネンさんのような若手起業家の急増は、「ノキア・ショック」を越えてもう一度、フィンランドから世界を目指そうという機運の表れでもあるのだ。
2千社を超えるスタートアップ企業を国も支援している。中心は、フィンランド技術庁。「シェア・ザ・リスク」をスローガンに掲げ、返済不要の助成金と長期ローンの2種類を提供している。
一般に、起業のリスクは初期段階に集中しているとされている。研究開発の長期化による資金不足や顧客ニーズが読めないことによる販売不振。成功するかどうか先が見えないため、民間の投資家やベンチャーキャピタルも投資したがらず、資金不足に陥ることが多い。技術庁が行う初期支援の実に75%は、1社あたり約5万ユーロ、日本円で約620万円もの返済不要の助成金だというから驚きだ。
残る25%は返済期間7~10年の長期ローンだが、技術庁が返済困難だと判断した場合は前出の助成金に切り替えてくれる。支援を受けられるのは審査を通過した企業だけだが、応募企業の60~70%が実際に融資を受けているという。フヤネンさんもその企画力を見込まれ、技術庁から長期ローンと2400万円の助成金を受けている。
こうした支援金に加え、「福祉国家」ならではの充実したセーフティーネットも、起業家たちを後押ししている。もし倒産しても雇用保険があり、職業訓練を受けたり、大学に通ったりして再チャレンジできる。どちらも無料だ。生活保護も、後ろめたいというより当然の権利として捉えられている。
ただ、手厚い制度や支援は、スタートアップにとって諸刃の剣でもある。日曜や祝日の出勤には通常の2倍の給料を支払わなければならないなど、厳しい就労規則があるからだ。
「起業するときは心強いですが、社員の福利厚生を整えるのは大変ですね」(フヤネンさん)
(アエラ編集部)
※AERA 2016年3月21日号より抜粋