アベノミクスのもとで景気は盛り上がりを欠く状態が続いている。2月15日に発表された15年10~12月期の実質国内総生産(GDP)の1次速報は前期比年率で1.4%減。2四半期ぶりのマイナス成長に陥った。特に個人消費と輸出の低調ぶりが目立つ。クレディ・スイス証券によると、過去8四半期の平均成長率から日本経済の勢いを見る「2年トレンド成長率」は、安倍政権の発足後では初めてマイナスに転落した。
ここでアベノミクスとは何かをおさらいしたい。日銀による大規模な金融緩和(第1の矢)と、公共事業の大盤振る舞い(第2の矢)で景気を押し上げて時間を稼ぐ間に、規制緩和などによって企業がビジネスしやすい環境を整え(第3の矢)、中長期的な経済成長を促す。これが基本的な考え方だった。なかでも最も効果を上げてきたのは、日銀が刷ったお金で国債やETF(上場投資信託)を大量に買い入れ、市場をお金でじゃぶじゃぶにする「異次元緩和」。日本円の量が増えてその価値が下がり、大幅な円安に。海外での売り上げの円換算額が膨らんだ企業の業績が改善し、株価上昇につながった。
アエラ本誌が繰り返し指摘してきたように、大規模な金融緩和は劇薬だ。株価を一時的に押し上げて世の中のムードを明るくすることはできるかもしれないが、深刻な少子高齢化や新興国の台頭によって落ち込んでいると言われる日本経済の成長力自体を引き上げる効能はない。しかし、第2の矢は先進国で最悪レベルの財政状況や建設業の人手不足が足かせに。最も重要な第3の矢にいたっては、既得権を持つ人々をおびやかす規制緩和によって敵をつくりかねないため安倍政権は及び腰。体質改善は置き去りにしたまま、日銀バブルとも言える状況が続いてきた。
「兜町は、いまや晩年のマイケル・ジャクソンのような状態になっています」
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘投資情報部長はこう指摘する。
「キング・オブ・ポップ」と呼ばれたスーパースターは09年、薬物中毒で急死。手術時に使われる強力な麻酔薬「プロポフォール」まで使っていたといわれる。
「日銀の金融政策の効果は明らかに薄れています。マイケルの主治医は次第に強いクスリを投与したにもかかわらず、痛みが去るのは一時的で、安らかな睡眠が訪れることがなかった。それと同じような現象です」
(アエラ編集部)
※AERA 2016年2月29日号より抜粋