自宅マンションに突如、外国人がひっきりなしにやってくる。「民泊」仲介サイトによるコミュニティー侵食の始まりだ。住民や管理組合はどう対応したらいいのか。
11月上旬、東京・新宿の賃貸マンションの一室。床にはガラス片やポリ袋などのゴミが散乱しているのに、オーナーの井上義雄さん(75)はホッとため息をつく。
「ようやく出ていってもらえましたよ。退去を求めてから2カ月近く。こんなことは二度と起きないでほしいが、完全に防ぐのも難しい気がします」
親が遺した土地に、オートロック付きのマンションを建てたのは8年前。十数室ある部屋はどれも25平方メートル前後で、家賃は9万円台だ。身元のしっかりした居住者を選ぶことで、女性にも安心して暮らしてもらい、資産価値の維持に努めてきた。ただ、「Airbnb(エアビーアンドビー)」の存在を知らないと、未然に「被害」を食い止めるのは難しい──。
井上さんの悲劇について詳述する前に、民泊とAirbnbについておさらいしておこう。旅館業法は、お金をもらって人を繰り返し泊めるには営業許可が必要だと定めている。許可を得るには、住宅地のように営業禁止の地域を避け、建築の基準も満たさないといけない。普通のマンションではまず無理。
だが、東京や大阪など都市部では、急増する訪日外国人の需要を当て込み、マンションの空室を使った民泊が横行している。それらの多くは、旅館業法違反(無許可営業)という刑罰をともなう犯罪に問われかねないにもかかわらず、だ。誰にでも簡単に部屋を貸し出せるようにした「立役者」が、仲介サイトのAirbnbだ。
2008年に米国で始まったAirbnbは、ネット上で貸したい部屋や建物と、借りたい旅行者を引き合わせてくれる。ホームステイのように住民と交流でき、地元の雰囲気を楽しめる魅力をうたいながら、世界190以上の国・地域で展開、手数料収入で急成長した。日本では10月時点で1万8千件が紹介され、前年同期の3倍を超えた。ただ、都市部では、自宅でもないマンションの一室を投資目的で貸し出す例が増えている。