レコードからCD、CDから定額配信へ──。音楽業界には定期的に「黒船」が到来する。いまやCDの売上額はすっかり右肩下がりだ。
そんな中、業界の荒波にじっと耐えるかのように静かな活況を呈しているのが、中年向けの洋楽ロック市場だ。ザ・ローリング・ストーンズやポール・マッカートニーなど、大物ロックミュージシャンの来日が話題になったが、彼らと同世代のベテランミュージシャンが、キャリアの終盤といえる今、日本の市場で確かな熱狂を浴びている。
ライブハウス運営と海外アーティストの招聘を行うクラブチッタの丸山好信さんは、「中高年の皆さんは、高額なチケット代にかかわらず高いクオリティーを求めて、しっかりと現場に足を運んでくださいます」と言う。この10年ほど、プログレッシブロックを中心に多くの来日公演を実現させてきたうえでの実感だ。そのクラブチッタが新たに立ち上げた「ザ・ベスト・オブ・イタリアン・ロック」公演に行ってみた。
ライブハウスでありながら、全て椅子席。スタンディングで1300人ほど収容できる会場に椅子を敷き詰めて約600席に。あたかもセミナー会場のように整然と並べられた椅子席がほぼ満席になっている。客層は、中年男性ばかり。通常のロックのライブのような、バンドTシャツで首にマフラータオル、といった観客はほとんど見かけない。この日は休日だがどちらかというと地味な服装で、ゴルフの練習に出かけた帰りとでもいった雰囲気だ。平日ならばスーツ姿も少なくないだろう。
演奏が始まっても、観客は席に座ったまま。曲が終わると、時折、興奮気味に立ち上がって拍手をする人がいるものの、すぐに座るのが“大人の流儀”だ。