どうすれば、地元の人たちに愛される店をつくれるのか。店長と打ち合わせを重ね、オープン前から地域住民向けのテイスティングパーティーやキッズイベントを開いた。祭りの手伝いやごみ拾いに積極的に参加し、幼稚園ママの集まりにはコーヒーを携えて出向く。一方で観光客には、カップにイカのイラストを描いてドリンクを提供。5都市でおよそ10店舗を担当していた佐藤さんは、戦略を考えて判断するところまでやって、ジッと我慢。現場は店長に一任した。

「店長の仕事を取っちゃいけない。これが『役割』というものなのかな」
 
 11年3月の東日本大震災当日、佐藤さんは札幌にいた。函館の店は浸水し、電気系統が故障して営業できなくなっていた。翌日に飛行機で向かい、店に入れたのは3日後。震災直後、常連客が「津波がくるから逃げろ」と店に電話してくれたことを知った。オーナーや近所の人たちは掃除を手伝ってくれ、修理業者も優先的に回してくれた。

「あの時の恩返しができるように、10年先、20年先も愛される店をつくりたい」

AERA 2015年7月13日号より抜粋