2013年8月14日、キャンプ瑞慶覧返還跡地(撮影/石川竜一)
2013年8月14日、キャンプ瑞慶覧返還跡地(撮影/石川竜一)
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 沖縄には、そこに暮らす人と人を隔てる見えない透明の「壁」がある。それは「軍用地主」か、否かという区別であり、言葉を変えると「持つ者と持たざる者」の区別と言うこともできる。

 米軍に土地を貸す軍用地主は、日本本土にもいる。しかし、沖縄の軍用地主の特殊性は、約4万人という数の多さにある。単純計算だが、家族4人で16万人、その近い親族も入れれば、人口約140万の沖縄で20万とか30万の単位で「地主本人か家族や親族に軍用地主がいる人々」が存在することになる。

 地主の数が多くなると、同時に、自分が地主であることは、なるべく他人には知らせたくない心理も働く。「あの人は地主らしいね」「賃料いっぱいもらっているってさー」。そんな噂が、沖縄社会の最も深いところで、ひそやかに飛び交う。

 沖縄県中部の北中城(きたなかぐすく)村の比嘉一郎さん(64)は、米海兵隊のキャンプ瑞慶覧(ずけらん)(同村、宜野湾市など)の司令部近くに数百坪の土地を持つ軍用地主だ。キャンプ瑞慶覧の90%以上は民有地。比嘉さんは、地主たち1200人でつくる「北中城村軍用地等地主会」の副会長を務める。

 キャンプが目の前に見える地主会の事務所で会った。比嘉さんは、実は自分の土地は一度も見たことがない。三十数年前に親から相続。毎年、1平方メートルあたり2千円ほどの賃料収入がある。

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