作家幸田真音さんこうだ・まいん/1951年、生まれ。米国系金融機関の債券ディーラーなどを経て95年、作家に。『日本国債』『日銀券』『ナナフシ』など著書多数(写真:本人提供)
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作家
幸田真音
さん
こうだ・まいん/1951年、生まれ。米国系金融機関の債券ディーラーなどを経て95年、作家に。『日本国債』『日銀券』『ナナフシ』など著書多数(写真:本人提供)
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 株価は2万円に迫り、大企業は賃上げラッシュ。日本経済に明るい兆しも見えるが、花見酒のほろ酔いは長くは続かない。米国系金融機関の債券ディーラーなどを経て作家となった幸田真音(こうだまいん)さんは、日本の国債市場に警鐘を鳴らす。

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 国債市場は本来、「鏡」のような存在なのです。政府や金融当局が適切でない政策や、誤った政策をとれば、市場は暴落という形でノーを突きつけ、金利が上がります。

 ところが、異次元緩和を続ける日銀がなりふり構わず国債を大量に買い入れているため、国債の金利はほぼゼロに張り付いています。動きがなくなり、収益チャンスを失ったいびつな「官製市場」からはプレーヤーが次々に消えつつあります。良いニュースが出ても悪いニュースが出ても、市場はほとんど反応しなくなってしまいました。国の借金が1千兆円を超えるというのに、です。

 国債市場が政府に対して発すべき「警告」のスイッチを、安倍首相は日銀に切らせてしまったのです。実際、首相は昨年11月にあっさりと消費税の再増税を2017年4月に延期すると決めました。

 私が『日本国債』を書いた00年前後には、市場にも大蔵省(現財務省)にも、1980年の「国債暴落」への対処なども経験した歴戦の専門家たちがいました。この小説で書いた通りに、「国債市場特別参加者(日本版プライマリーディーラー)制度」が導入されるなど、国債市場の改革も進みました。

 しかし、財政状況は悪化する一方です。今は、新しく発行される国債をとりあえず落札しておけば、値段がいくらだったとしても、後で日銀が買ってくれる。熟練も知識も無用です。「金利がつくこと」「金利が動く怖さ」を知っている人が、現場からどんどんいなくなっている。

 今の国債市場は異様です。いつどんなきっかけで動揺が起きてもおかしくありません。国債市場は、じりじりと悪くなっていくのではなく、ある時、ドスンとショックが来るものです。その時に対処できる人がいなければ、「事故が起きたらどうするか」をきちんと考えておかなかった原発災害と同じ構図になりかねません。

AERA 2015年3月30日号より抜粋