関山和秀(31)スパイバー社長慶応義塾大学環境情報学部卒。在学時にクモの糸の研究を始める。博士課程在学中の07年に「スパイバー」設立(撮影/早坂正信)
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関山和秀(31)
スパイバー社長
慶応義塾大学環境情報学部卒。在学時にクモの糸の研究を始める。博士課程在学中の07年に「スパイバー」設立(撮影/早坂正信)
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 ネット起業だけがベンチャーじゃない。「虫」こそ洗練された生物だと、ものづくりに挑む企業がある。

 暴走する電車を止めようと、手から出したクモの糸を線路脇のビルに張り巡らせ、その糸の力で停止させる──。映画「スパイダーマン2」のワンシーンだ。

 欧米を中心にクモの糸を実用化する研究がなされてきたが、量産には至らなかった。その未踏だった領域に踏み込んだ企業が、山形県鶴岡市にある。バイオベンチャー「スパイバー」だ。

「問い合わせの8割くらいは、海外から。国内より海外のほうが反応は強いようです」

 スパイバーの関山和秀社長は、そう話す。世界から注目される理由は、2013年に世界で初めて、人工合成したクモ糸繊維を量産できる技術開発に成功したからだ。

ナイロンを上回る伸縮性を持ちながら、高い耐熱性と鋼鉄の4倍の強度を持ち合わせる。その強さを例えるなら、あくまで理論値だが、直径1センチのクモ糸を放射状に30本張り巡らせた直径500メートルくらいの“巣”であれば、「乗客がいないジャンボジェットの離陸スピードくらいで突っ込んできても、そのエネルギーを吸収できる」というから驚きだ。

関山さんがクモに目をつけたのは、慶應義塾大学環境情報学部に通っていた04年、静岡県の熱海で研究室のメンバーと飲んでいた夜のことだ。なぜか、虫の話題になった。

「トンボなどの化石を見てもわかるとおり、虫は何億年も前から形が変わっていません。生物は、人間のように環境に適応するよう洗練されていくもの。つまり、虫はそれ以上に進化する必要がないほど、洗練された生物なのかな、って」

 人類を変えるテクノロジーは、きっと虫に眠っている──。関山さんたちは、研究への欲求に駆られた。

「どうせ研究するなら強い虫。スズメバチも話にあがりましたが、結局、それを捕食するクモにたどり着きました」

 3年後の07年、熱海の夜に一緒だったメンバーや友人と共同で起業。“スパイダー”と“ファイバー”を掛け合わせて、社名にした。現在の従業員は約50人。ベンチャーキャピタルや地元の金融機関から出資を受け、資本金は25億円超に膨らんだ。

AERA  2014年12月29日―2015年1月5日合併号より抜粋