視聴率で「あまちゃん」超えもしたNHK連続テレビ小説「ごちそうさん」。要因のひとつが、飯島奈美さんが担当する心づくしの料理。そこには、テレビには映らないこだわりがあった。
コーヒーと梅シロップをかけたかき氷に、メレンゲをのせて火をつける。その名も「焼氷(やきごおり)」。100年ほど前に実在したがレシピは残されていない、幻のスイーツだ。ポテンとした大正モダンなオムレットライス、大きなタコが入ったアツアツの関東煮(だき)(おでん)。「ごちそうさん」に登場する料理はどれも、画面越しにその温度や香りが伝わってきそうだ。
脚本に書かれた料理を形にしてドラマに登場させているのは、フードスタイリストの飯島奈美さん。テレビCMの他、映画「かもめ食堂」などでも料理制作を担当する。
「ごちそうさん」は、飯島さんのこれまでの仕事で最も時代設定が古い、明治の終わりから昭和にかけての設定。戦時中の食糧難や、食材を無駄なく使い切る「始末の精神」が背景にあり、ごちそうばかりが登場するわけではない。飽食の時代に生きる私たちが、なぜ昔の料理の虜になってしまうのか。
アシスタント時代からキャリア23年になる飯島さん。CM撮影でひっくり返されるためだけの料理を作り続けたこともあった。一瞬しか映らない料理にも手を抜かず、味にもこだわる。
「おいしく作らないと、おいしそうに見えない」
その信念があるからだ。
料理で時間を表すことは、飯島さんにとっては当たり前の仕事だ。撮影現場でもドラマと同じように時間や季節が流れている。朝食のみそ汁は具まではっきり映るわけではないが、前日の夕食でカブを使ったなら、残ったカブの葉を入れる。ぬか漬けは旬の野菜だけ。め以子のぬか床は現場で実際に生きており、調整が必要なこともある。
め以子の実家の開明軒で何度も登場したまかない飯も、撮影用の材料を無駄にしないように考案した。ご飯にハンバーグやカツをのせたワンプレートが多い。「まかないチキンライス」は、残った赤茄子ご飯(チキンライス)とコキールやチキンフリカッセで使うホワイトルウを合体させたもの。記憶にある視聴者は少ないだろうが、め以子と悠太郎、文士の室井幸斎も食べていた。ありそうでなかった、優しくてどこか懐かしい味わいだ。
飯島さんの創作料理は「過去の経験と応用と探究心」によって生まれている。ある喫茶店で梅シロップ入りのコーヒーを味わったことから、焼氷が生まれた。食糧難時代の節米料理は、アフリカの主婦に教わったパスタ料理をヒントに、炒めたそうめんでかさ増しした。
※AERA 2014年1月27日号より抜粋