涙を流したあと、希望者は居残って歓談。「涙友(るいとも)」と会話を弾ませていた(撮影/伊ヶ崎忍)
この記事の写真をすべて見る

 土曜の夜7時、都内のあるビルに30人ほどの男女が集まる。見た目は普通の会社員風。年齢は20~40代までさまざまだが、目的は一つ。「泣く」ことだ。涙を流してストレスを解消し、みんなでリフレッシュしようという「涙活(るいかつ)」が、最近、静かに盛り上がっている。

 発案者は、離婚式プランナーの寺井広樹さん。別れる夫婦がひとしきり号泣し、その後はサッパリした顔をしていることから、涙活の可能性を見いだした。

 プログラムの最初は詩の朗読。情感をこめて語るせつない内容に、参加者たちは神妙な表情で聞き入っていた。続いて、落語家ならぬ「泣語家(なくごか)」の泣石家(なかしや)芭蕉さんが泣ける噺を披露。泣石家さんの本業は葬儀会社の経営者だ。

「亡くなる2日前、祖父は丸まっていた背中をシャキッとさせ、姉に向かって叫びました。『おじいちゃんも頑張るから、お前も頑張れ!』」

 泣石家さんが涙声で語ると、筆者の前の席の女性がハンカチを取り出し、肩をふるわせる。日常生活において、いい大人が人前で涙を流すことはご法度だが、ここでは逆。いち早く泣けた人は堂々と涙をぬぐい、「涙のエリート」たるたたずまい。自分も早く泣きたい、という不思議な気持ちにさせられる。

 こうして涙を流すことによるリフレッシュ効果は、医学的にも解明されている。脳生理学者の有田秀穂・東邦大学名誉教授は、自律神経と涙の関係についてこう説明する。

「涙を流すと脈拍がどんどん下がり、緊張状態の交感神経から、リラックス状態の副交感神経に切り替わります。起きていながらにして、寝ている時と同じように脳が休んだ状態になるのです。泣くことは、人間に備わった究極のストレス解消法」

 ありがたいことに、涙活の効果は持続性が高い。

「一度、号泣すれば、1週間くらいは心が穏やかな状態が保たれます。週末に5~10分でもいい。積極的に涙を流す習慣を持ってほしいですね」(有田さん)

AERA  2013年12月23日号より抜粋

[AERA最新号はこちら]