北のタブレットPC「三池淵」。世界中で大ヒットしたモバイルゲーム「アングリーバード」の海賊版も入っていた(撮影/写真部・植田真紗美)
北のタブレットPC「三池淵」。世界中で大ヒットしたモバイルゲーム「アングリーバード」の海賊版も入っていた(撮影/写真部・植田真紗美)
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 大きさはiPadミニほどで、外装の色は黒。一見どこにでもあるタブレットPCのようだが、電源を入れると、そこは紛れもない「北朝鮮の世界」なのだった。

 画面に現れたのは、太平洋のど真ん中を垂直に飛ぶ白く細長いミサイルの姿。胴体にはハングルで「銀河(ウナ)3」とある。昨年12月に北が「人工衛星打ち上げのためだ」と強行した事実上の弾道ミサイルである。

 実はこれ、北のメディアが「我が国独自の技術で開発した」と豪語する北朝鮮製タブレットPC(北では「板型コンピューター」と呼ぶ)なのだ。今年、北朝鮮国内で本格的に売り出され、平壌(ピョンヤン)での貿易展示会でも話題になった。北のタブレットには「アリラン」「リョンフン」などのブランドがあるが、筆者が入手したのは「三池淵(サムジヨン)」ブランドの機種。

 平壌での価格は250ドルほどという。だがこの11月に世界的ネット競売サイトが「三池淵」をオークションにかけたところ、物珍しさからか、546ドルと倍以上で落札された。

 北朝鮮の給与水準からすれば250ドルはかなり高い買い物のはずだが、「一部特権層が子供の教育のために買うんでしょう」というのは北朝鮮事情に詳しいビジネス関係者。

 確かに「三池淵」には教育本が満載だ。「主体(チュチェ)思想学習資料」のアイコンを開けると、「金日成(キムイルソン)著作集(50巻)」「金日成全集(85巻)」「金正日(キムジョンイル)選集(15巻)」など金王朝バイブル本が山ほど出てくる。遊び用のゲームや朝鮮将棋もある。

「朝鮮大百科事典」は検索語を入れると該当の記述が出てくる仕組み。北が初めて打ち上げに成功した(1998年)と称する人工衛星「光明星(クァンミョンソン)1号」を検索すると、

「衛星からは不滅の革命賛歌『金日成将軍の歌』『金正日将軍の歌』の旋律とともに、『主体朝鮮』を意味するモールス信号が送られてきている」

 との記述が出てきた(だが国際的には全く確認されていない)。文中にあるボタンを押すとミサイル発射の動画が流れる力の入れようだ。

AERA  2013年12月16日号より抜粋