小野絢子(右)、米沢唯(左)。2人の踊る「火の鳥」は新国立劇場オペラパレスにて11月13、15~17日、全4回公演(撮影/写真部・東川哲也)
小野絢子(右)、米沢唯(左)。2人の踊る「火の鳥」は新国立劇場オペラパレスにて11月13、15~17日、全4回公演(撮影/写真部・東川哲也)
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 タイプの違う新国立劇場バレエ団のプリンシパル2人が11月、「火の鳥」に挑む。

 クルクルとよく動く目で人懐っこそうに話しかけてくる米沢唯(26)。口数は少ないが芯のある話し方、艶っぽいほほ笑みで同性ですらドキドキしてしまいそうな小野絢子(27)。

 2人は、11月公演の「火の鳥」で主役の火の鳥をダブルキャストで務める、新国立劇場バレエ団のプリンシパルだ。年齢も若く今が伸び盛り。2人を指導する板橋綾子さんは言う。

「2人ともすごく頭がよくて努力するから、日々進歩している。絢子さんは自分をしっかり持っていてぶれない。唯さんはあらゆるものを吸収しようとするダンサーですね」

 10月初旬、米沢と小野は「火の鳥」のリハーサルをしていた。火の鳥は、ロシアの民話に基づくバレエ。王子が火の鳥の助けを借りて魔王に捕らわれた王女を救いだし結婚する物語。傑作と名高く、ロシアの作曲家ストラヴィンスキーの音楽や衣装、繊細だが迫力ある振り付けが魅力だ。

 物語の要となるのは、もちろん、主人公の火の鳥。小野が演じる火の鳥は可憐で優雅。近寄りがたいような孤高さを感じさせる。一方、米沢の火の鳥は、大胆な動きと挑戦的な仕草で男を翻弄する小悪魔的な要素がある。

「絢子さんは劇場を出てからも役作りをして芸術性を磨いているようなダンサー。唯さんは努力の天才。止まると死んでしまうといわれるマグロが泳ぎ続けるように、ずっと練習している。お互い体つきも踊りのタイプも違いますし、それぞれの魅力があります。バレエ好きの方の中には、同じ演目を違う主役でご覧になる人もいますね」(板橋さん)

 2人が初めて出会ったのは10代後半に出場したコンクール。1位が米沢、2位が小野だった。そのときの衝撃をお互い、鮮明に記憶している。

「何よりテクニックが完璧でした。それに、唯ちゃん、音源を持ってくるのを忘れて、練習のときにカウントだけで踊りきったんです。普通は多少、音楽に助けられながら踊るものなんですけど。あの動きを録画して、あとから音楽をつけてもピッタリと合ったはず」(小野)
「匂い立つような踊り。こんなにエレガントに踊る人がいるんだって。舞台がキラキラして、バレエってこういうものなのかと、びっくりしました」(米沢)

 小野はその後、新国立劇場バレエ団の研修所を経て2007年に入団。直後に主役に抜擢され、11年にプリンシパルに。

 米沢はアメリカのバレエ団に入団するも、鳴かず飛ばず。幼い頃から賞を取り続けてきた米沢にとってはどん底だった。バレエ雑誌の小野の記事を見て「遠い世界に行ってしまった。私はもうだめだ」と思っていた。日本に帰国して心と体を作り直し、「だめだったらバレエをやめよう」と覚悟して受けた新国立劇場バレエ団のオーディションに合格。10年に入団し、ほどなく主役に抜擢された。

 出会いから10年近くたった今、お互いに刺激し合い高め合う。さながら、漫画『ガラスの仮面』で才能と努力を認め合いつつ、主役の座を巡って競い合う北島マヤと姫川亜弓のよう。タイプは違えど、好きな役は2人とも「ロミオとジュリエット」のジュリエット役。2人のジュリエットに魅せられる日を楽しみにしたい。

AERA 2013年10月28日号