原発事故跡を、観光地化する。おふざけでも奇をてらったわけでもない。その真意を、中心人物が語る。
発生から2年半経った今も15万人の避難者が残る福島第一原発事故。批評家の東浩紀さんは昨年秋にその跡地を「観光地化」するという計画を提唱した。『「フクシマ」論』の著者である社会学者の開沼博さんをはじめ建築家や美術家、ジャーナリストらが集まりチームを結成、研究会や現地である南相馬市でのワークショップなどの活動を続け、今年4月には東さん、開沼さんらメンバーが1986年に原発事故を起こしたウクライナ・チェルノブイリ原発周辺地域を「観光」。取材結果をムック『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド』にまとめた。
原発事故と観光という、一見不謹慎に思える言葉を組み合わせた東さんの意図は明確だ。
「事故を風化させないためです」
現地でインタビューした被災者たちは何よりも事故の風化を恐れ、被災体験を語ることが癒やしや自己確認になっていたと東さんは振り返る。
「観光地化というのは被災地に大きな遊園地をつくることではなく、絶対的な『情報公開』ということなんです」
事故から27年を経たチェルノブイリ原発と周辺地域は今、観光客を積極的に受け入れ始めている。チェルノブイリには実は発電所の送電機能が一部残っており、その作業の様子や事故を起こした「4号炉」の廃炉作業を間近で見られるのだ。すべての状況をあらゆる人が気軽に見られることによって、今回の事故は次世代に引き継がれていくと東さんは強調する。
そのためには、跡地にデータやグラフばかりならんでいる退屈な箱ものやただの公園をつくってしまうことを避け、「観光地化」により魅力的な拠点を生み出さなければいけない。一見奇をてらったように見える東さんの提案には、そんな思いが込められている。
「キエフ(ウクライナの首都)にある国立チェルノブイリ博物館のメインホールはロシア正教のシンボルを生かしアートっぽい展示になっている。日本ではうさんくさいと思われがちなこういった仕掛けこそが必要だと考えています」
※AERA 2013年9月23日号