宮越屋珈琲照明、BGMは控えめ。一部座席には仕切りがあるなど、「独りになりたい」「人払いをしたい」オトナの欲求にも応える。写真は新橋店(撮影/高井正彦)
宮越屋珈琲
照明、BGMは控えめ。一部座席には仕切りがあるなど、「独りになりたい」「人払いをしたい」オトナの欲求にも応える。写真は新橋店(撮影/高井正彦)
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チーズトースト(左、400円)とブレンド(650円)。フードは少なく、コーヒーにこだわる(撮影/高井正彦)
チーズトースト(左、400円)とブレンド(650円)。フードは少なく、コーヒーにこだわる(撮影/高井正彦)

 もっとも、地方発のすべての喫茶店が拡大路線を目指しているわけではない。なかには、東京に出店しながら店舗は創業地を中心に少数経営で、地元のファンから愛され続ける名店もある。茨城なら「サザコーヒー」、長野は「丸山珈琲」、大阪「丸福珈琲店」、京都「イノダコーヒ」などがある。

 で、北の雄といえば北海道を中心に25店舗を展開する「宮越屋珈琲」だ。

 東京店の一つが新橋にある。

社長の宮越陽一さんは、札幌の喫茶文化を「深夜営業が普通。ウチも札幌では深夜1時まで営業しています」と言う。

 ナイター中継を観てから、夫婦で喫茶店に出かける。札幌ではそんな喫茶文化が根づく。

 北国はコーヒーの量も違う。一般的にコーヒー一杯は100ccだが、宮越屋は140cc注ぐ。冷えた身体を温めたいからたっぷり。つられてアイスコーヒーもたっぷりなのだ。

 宮越さんは、ニッポンのコーヒーをこう考える。

「お吸いもの。澄んだなかにも、香りとコクがしっかりとある」

 そんな味を出すために、一杯立ての布製フィルターで淹れるネルドリップでやってきた。手間も時間もかかる。

 近年、欧米では日本のコーヒー器具や技術が羨望を集め、国内でも再評価が進んでいる。そう、日本の珈琲文化は高品質。理由はこうだ。
「戦後、輸入するコーヒー豆の質は悪かった。輸送も船だったため鮮度も低かったんです」

 だから、焙煎でいかに豆をおいしくできるかが磨かれた。

 しかし、課題は技術の継承だ。

「(一代で店を築き上げた)『巨匠系』の店が全国にありました。でも、オーナーが倒れたら店も終わってしまうケースが多い。私は継承していきたい」(宮越さん)
 今年、創業28年で初のフランチャイズビジネスを始める。目標は東京に20店舗だ。
AERA 7月15日号