もっとも、地方発のすべての喫茶店が拡大路線を目指しているわけではない。なかには、東京に出店しながら店舗は創業地を中心に少数経営で、地元のファンから愛され続ける名店もある。茨城なら「サザコーヒー」、長野は「丸山珈琲」、大阪「丸福珈琲店」、京都「イノダコーヒ」などがある。
で、北の雄といえば北海道を中心に25店舗を展開する「宮越屋珈琲」だ。
東京店の一つが新橋にある。
社長の宮越陽一さんは、札幌の喫茶文化を「深夜営業が普通。ウチも札幌では深夜1時まで営業しています」と言う。
ナイター中継を観てから、夫婦で喫茶店に出かける。札幌ではそんな喫茶文化が根づく。
北国はコーヒーの量も違う。一般的にコーヒー一杯は100ccだが、宮越屋は140cc注ぐ。冷えた身体を温めたいからたっぷり。つられてアイスコーヒーもたっぷりなのだ。
宮越さんは、ニッポンのコーヒーをこう考える。
「お吸いもの。澄んだなかにも、香りとコクがしっかりとある」
そんな味を出すために、一杯立ての布製フィルターで淹れるネルドリップでやってきた。手間も時間もかかる。
近年、欧米では日本のコーヒー器具や技術が羨望を集め、国内でも再評価が進んでいる。そう、日本の珈琲文化は高品質。理由はこうだ。
「戦後、輸入するコーヒー豆の質は悪かった。輸送も船だったため鮮度も低かったんです」
だから、焙煎でいかに豆をおいしくできるかが磨かれた。
しかし、課題は技術の継承だ。
「(一代で店を築き上げた)『巨匠系』の店が全国にありました。でも、オーナーが倒れたら店も終わってしまうケースが多い。私は継承していきたい」(宮越さん)
今年、創業28年で初のフランチャイズビジネスを始める。目標は東京に20店舗だ。
AERA 7月15日号