北朝鮮の意表を突くミサイル発射も驚きだが、かつてないレベルでの成功はさらに驚きだった。ミサイルとセットの核兵器開発も、北朝鮮は飽くことなく続けている。そんな中、国連「北朝鮮制裁委員会」の報告書に、「北朝鮮」と「六ヶ所村」の気になる記述が見つかった。
国連のホームページの安保理のページには「北朝鮮制裁委員会」による10、12年の年次最終報告書が公表されている。同委員会は06年、北朝鮮の核実験強行を受け、制裁決議に対する各国の順守状況監視のために作られた。09年の2度目の核実験で、制裁委に7カ国の専門家による調査パネルが作られ、毎年5月、最終報告書が安保理に提出されるようになった。
だが11年5月提出分だけは中国が同意せず非公表のまま。パネルの中国委員が報告書案に異議を唱え署名も拒否した。
アエラが入手したその報告書に日本関連の記述がある。10年11月、ヘッカー・元米ロスアラモス国立研究所長が北朝鮮に招かれウラン濃縮施設を見せられた。その際、北のチーフエンジニアはこう口にしたという。
「この施設の仕様はどれも国産品でつくられた。だがモデルにしたのは、アルメロと六ケ所村にある遠心分離器だ」
すべて国産との主張は疑わしい。北が核関連部品を世界中から集めるのは周知の事実だ。アルメロとはオランダの地名で、ウラン濃縮機器製造会社ウレンコ社がそこにある。「核の闇市場」をつくり、北朝鮮との核兵器技術の取引が指摘されるパキスタンのカーン博士が1970年代に同社に勤務した。彼はそこで濃縮技術を身につけた。
ウラン濃縮は高濃縮が実現できれば原爆の原料を生産できる。そうなれば「この施設だと年1~2個の核兵器製造が可能」とヘッカー氏は分析した。北の過去2度の核実験は別の製造法のプルトニウム型とされ、ウラン濃縮による核実験は確認されていない。
青森県六ケ所村の核燃料再処理工場は日本の原発から出た使用済み核燃料を集め、ウランとプルトニウムを取り出す。ウラン濃縮工場もある。北のエンジニアはそこの技術を参考にしたと述べたのだ。
発言の真意は何だったのか。日米同盟への揺さぶりか、混乱を狙った一種の心理戦か。事実かどうかも含め、いまもはっきりしないままである。
※AERA 2012年12月24日号