『アーリー・アート』
『アーリー・アート』
『ザ・ビギニング・アンド・ジ・エンド』
『ザ・ビギニング・アンド・ジ・エンド』
『ザ・クッカー+1』
『ザ・クッカー+1』
『レディ・フォー・フレディ+2』
『レディ・フォー・フレディ+2』

●アート・ファーマー(1928‐1999)

アートの夜も長かった

 アート・ファーマーの録音を時系列で追うと、すぐに「アート」か「ファーマー」に出会える。3年分ほど聴けばよい。ウン?どこか見たような気が・・・。前回「トランペット その2」のディジー・ガレスピーとはそこが違うわけだ。早熟だったのではない。聴くべき録音が少ないのだ。45年にロスでデビュー、48年にジェイ・マクシャン楽団で、49年にロイ・ポーター楽団で録音を残しているが、ソロはとっていない。ソロが聴ける最も古い録音は52年1月のワーデル・グレイのセッションで、デビューから7年近くたっている。

 厚く輝かしいトーンとヴァーティカルなラインにディジー・ガレスピーの痕跡が認められるが、のちに花開くファーマーらしさもうかがえる。温和で趣味のよいガレスピーといったところだ。52年の秋にライオネル・ハンプトン楽団に入団し、翌年8月にはクリフォード・ブラウンが入団してくる。楽団の渡欧中に録音されたブラウンのセッションでは、マイルス・デイヴィス流のスリムなトーンとホリゾンタルなラインに様変わりしている。

リリカルな芸風を確立

 クリフォード・ブラウンとの出会いは衝撃的だった。54年1月から11月のリーダー・セッションには、しだいにマイルス・デイヴィスからブラウンに宗旨がえしていく様子が捉えられている。しかし、こうした模索が結果的に個性の確立を急がせた。マイルスでもブラウンでもなく、自分の感性に従うということだ。兆しは11月のセッションで現れはじめ、知的でリリカルなスタイルを築きあげていくプロセスは、55年5月から10月のセッションに記録されている。

 翌年になると暖かさにクリスタルのような透明感が加わり、リリカルなスタイルに磨きがかかっていく。こうして60年9月の『アート』で、のちに「ぬるま湯」とも酷評された芸風は確立する。ワン・アンド・オンリーなスタイルは、追随者を多くは生まないものだ。知的でリリカルなスタイルということから、白人のほうに似たタイプが多いように思う。 その代表としてはボビー・シューを挙げておく。黒人ではベニー・ベイリーくらいしか思いあたらない。

●クリフォード・ブラウン(1930‐1956)

最初のモデルはガレスピー

 クリフォード・ブラウンも、模倣→葛藤→個性の確立というサイクルから逃れられたはずはないのだが、録音にその痕跡は見いだせない。初録音は52年3月、クリス・パウエル楽団のセッションだった。豊かで輝かしいトーンによる歌心に富むソロは、ブラウン・スタイルそのものだ。その成熟度から、この数年前には出来あがっていたことがよくわかる。もちろん、ブラウンが残した録音を時系列で追うと変化は認められるが、円熟の跡と見るべきだろう。

 ブラウンは13歳でトランペットを与えられ、ボイジー・ロワリーのレッスンを受けはじめる。ロワリーは古くからディジー・ガレスピーと親交があり、いち早くビ・バップの洗礼を受けていた。その実践的レッスンにより、ブラウンはメキメキ腕をあげていく。ハイスクールでブラウンに楽理と吹奏法を授け、基礎固めに大きな役割を果たしたハリー・アンドリュースは、「入学したてのブラウンはガレスピー・スタイルで吹いていた」と語っている。

目指すはファッツ・ナヴァロの進化形

 やがてブラウンは、ニューヨークに次ぐビ・バップの中心地、フィラデルフィアで演奏をはじめるようになる。おそらく46年にファッツ・ナヴァロと出会い、第二のガレスピーになるつもりなどなかったブラウンの進路が定まる。ブラウンが目指したのは、進化したナヴァロだった。豊かで均質なトーンによる立てつけのよいソロはナヴァロ譲りだが、端正なナヴァロに対するに奔放なブラウンという違いを生んだのは、個性にほかなるまい。

 バッパーの極端さとは無縁で、完璧なテクニックと構成美をそなえつつ、燃え立つようなエモーションをほとばしらせたブラウンは、脱ビ・バップを模索するトランペッターの理想形になった。同時代人といわず後進といわず、主流派はすべからくブラウンの影響を受けている。代表としてはブラウンの再来といわれたドナルド・バードとリー・モーガン、少しあとではウディ・ショウ、かなりあとだがウィントン・マルサリスを挙げておく。

●リー・モーガン(1938‐1972)

手綱をとられた神童

 初録音は56年11月4日、初リーダー・セッションでもあった。わずか18歳、神童というほかない。トーンはブラウンほど暖かくも厚くもなくスッキリしている。臆面もなくブラウン・フレーズを繰り出すかと思えば、早くも語尾をしゃくりあげるチンピラっぽいモーガン節も聴かれる。荒削りの感は否めないが、3週間後のハンク・モブレー(テナー・サックス)のセッションでは大人びている。荒削りは気負ったせいで、出来あがりつつあったと見ていいだろう。

 57年3月のリーダー・セッションは名演《クリフォードの想い出》で知られるが、ほかでも流麗で立てつけのよいソロをとっており、モーガンの急速な成長を目のあたりにできる。ただ、このあとも智将ベニー・ゴルソン(テナー・サックス)がかかわったリーダー・セッションでは、どこか「こじんまりまとまった」印象を禁じえない。ゴルソンが音楽監督を務めた時期のアート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズでの演奏についても物足りなさを覚える。

奔放に駆けめぐる天才

 そのせいかどうか、57年9月のジョン・コルトレーン(テナー・サックス)のセッションでは、ハードなトーンで熱をおびた鋭い演奏を繰り広げている。初めてゴルソンがかかわらなかった2週間後のリーダー・セッションでも、痛快な持ち味がいかんなく発揮された。58年9月、モーガンはジャズ・メッセンジャーズに入団する。12月の「クラブ・サンジェルマン」での演奏をベストに推す方もあるが、《モーニン》をのぞいてモーガンらしさはいま一歩及ばない。

 59年の秋にウェイン・ショーター(テナー・サックス)が入団すると、モーガンは一気に本領を発揮する。最良の成果が『チュニジアの夜』で、エモーションのたけを噴出している。のちにジャズ・ロックやモードにもとりくんだが、スタイルはこの時期に完成したと見てよく、50年代後半を代表するトランペッターになった。影響を受けた代表としてはエディ・ヘンダーソン、少しあとではランディ・ブレッカー、近いところでロイ・ハーグローヴを挙げておく。

●フレディ・ハバード(1938‐)

新しい感覚を活かせず

 初録音は57年12月、生地インディアナポリスでのモンゴメリー・ブラザーズのセッションだった。なんともお粗末だ。58年にニューヨークに出て、12月にジョン・コルトレーンのセッションに参加する。トーンは厚く輝かしいが、やっと及第点といったところだ。59年2月のポール・チェンバース(ベース)のセッションで、ようやく充分なソロ・スペースを与えられる。ブラウン系というよりはマイルス系で、フレッシュとも青臭いともとれる演奏だ。

 60年4月にエリック・ドルフィー(アルト・サックス)の『アウトワード・バウンド』セッションに参加し、ハード・バップを基調としつつ、新しい感覚も垣間見せている。6月の初リーダー・セッションでも同様だ。このあと61年5月までの1年間に、自己を含め21ものセッションに参加している。オーネット・コールマン(アルト・サックス)の『フリー・ジャズ』など、重要作が少なくないが、ハード・バップを超える「新しさ」をもってスタイルを確立するにはいたっていない。

新主流派として飛び立つ

 61年8月の『レディー・フォー・フレディ』で、模索に一応のピリオドが打たれる。ここでフレディはコーダルからモーダルにシフト・チェンジし、大きく羽ばたく。模索から抜け出す手助けをしたのは、直前にフレディが入団したジャズ・メッセンジャーズでの同僚ウェイン・ショーターだろう。エリック・ドルフィーやブッカー・リトルの影響も軽視できないが、探究を結実させたのはショーターだと見る。たまたまにしては、タイミングがよすぎるのだ。

 しかし、一朝一夕とはいかなかった。基調はハード・バップで、ときおりモーダルという状態が長らくつづく。63年6月、ジャズ・メッセンジャーズの『ウゲツ(雨月)』でハード・バップ色は一掃され、ここに快進撃をはじめたフレディは、数々の新主流派の傑作に名をとどめる。最後?の大物だから、影響を受けた者は数多い。代表としてはエディ・ヘンダーソン、フランコ・アンブロゼッティ、チャールズ・トリヴァー、ウディ・ショウ、ウィントン・マルサリスを挙げておく。

 トランペットは今回で終わりにし、次回からトロンボーンをとりあげさせていただく。

●参考音源(抜粋)

[Art Farmer]
Wardell Gray Memorial Vol.2 (52.1 Prestige)
Clifford Brown Memorial (53.9 Prestige)
Early Art/Art Farmer (54.1 & 11 Prestige)
When Farmer Met Gryce (54.5, 55.5 Prestige)
The Art Farmer Quintet (55.10 Prestige)
Art/Art Farmer (60.9 Argo)

[Clifford Brown]
The Beginning and the End/Clifford Brown (52.3 Columbia)
Clifford Brown Memorial Album (53.6 & 8 Blue Note)
Clifford Brown Memorial (53.6 & 9 Prestige)
The Paris Collection/Clifford Brown (53.9 & 10 Vogue)

[Lee Morgan]
Lee Morgan Indeed! (56.11 Blue Note)
Hank Mobley Sextet (56.11 Blue Note)
Lee Morgan Vol.3 (57.3 Blue Note)
Blue Train/John Coltrane (57.9 Blue Note)
The Cooker/Lee Morgan (57.9 Blue Note)
A Night in Tunisia/Art Blakey & The Jazz Messengers (60.8 Blue Note)

[Freddie Hubbard]
Open Sesami/Freddie Hubbard (60.6 Blue Note)
Ready for Freddie/Freddie Hubbard (61.8 Blue Note)
Ugetsu/Art Blakey & The Jazz Messengers (63.6 Riverside)
Out to Lunch/Eric Dolphy (64.2 Blue Note)
Breaking Point/Freddie Hubbard (64.5 Blue Note)
Empyrian Isles/Herbie Hancock (64.6 Blue Note)