職場で異性を下の名前で呼ぶことが、セクハラにつながることもあることもあるという。しかし、使い方によっては職場の一体感醸成に役立つ可能性もある。

 人材コンサルタントの田中和彦さんによれば、人材系企業に勤めていた20代の新人女性社員が男性上司から「俺のことを下の名前で呼べ」と命令され、セクハラとして訴えたことがある。結果、この女性は異動することになった。

「その上司は他の社員からは下の名前で呼ばれていたんですが、女性社員のほうはあまりその人が好きではなくて名字で呼んでいた。そこをとがめられて怒ったそうです」(田中さん)

 となると、職場で異性を下の名前で呼ぶのは避けたほうがよいという結論になりそうだ。だが、実は使い方によってはそうでもないらしいのである。

「社員同士、下の名前やニックネームで呼び合う会社は増えてきています」

 そう語るのは、太田肇・同志社大学教授(経営組織論)だ。叱られ慣れていない若者が多い中、若年層の離職率を下げたい会社に必要なのは、上司と部下、命令と服従というタテの関係ではなく、兄貴、姉貴のように部下や後輩に寄り添う「ナナメの関係」だ。そのとき有効なのが「下の名前で相手を呼ぶ」ことだと太田さんは言う。

「部下や後輩を一つの人格として認めることにもつながり、完全なタテの関係ではなくなるわけです」(太田さん) 男女が混在する職場では、異性を下の名前でスマートに呼べることが、職場の一体感醸成に役立つかもしれない。

AERA 2012年11月19日号