北京市内の書店から撤去されていた日本関係の書籍が、売り場に戻り始めた。村上春樹さんの『1Q84』も平積みに(C)朝日新聞社@@写禁
北京市内の書店から撤去されていた日本関係の書籍が、売り場に戻り始めた。村上春樹さんの『1Q84』も平積みに(C)朝日新聞社@@写禁
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「村上春樹が好き。彼が日本人であるかどうかは全く関係ない」
「日本人ではあるけれど、彼はアジア文化を代表する黄色い皮膚の黒い髪の人である」

 作家の村上春樹さんを讃えるこんな書き込みがいま、中国のネット上にあふれている。

 きっかけは、村上さんが9月28日付の朝日新聞に寄稿した「魂の行き来する道筋」と題したエッセーだ。東アジアの領土をめぐる問題について、文化交流に影響を及ぼすことを憂慮している。村上さんはまず、日本関係の書籍が中国の多くの書店の売り場から姿を消す事態になったとの報道に触れ、ショックを感じていると明かす。領土問題が「国民感情」の領域に踏み込むと危険な状況が出現するとして、それを「安酒の酔いに似ている」と指摘。エッセーの最後ではこう訴えた。

「安酒の酔いはいつか覚める。しかし魂が行き来する道筋を塞いでしまってはならない。その道筋を作るために、多くの人々が長い歳月をかけ、血の滲むような努力を重ねてきたのだ。そしてそれはこれからも、何があろうと維持し続けなくてはならない大事な道筋なのだ」

 エッセー発表当日の日本時間午後3時前には、中国版ツイッター「微博」で、全文の中国語訳が張り付けられたツイートが出た。これに対する「転発」と呼ばれるリツイートは3日間で1万を超え、「評論」と呼ばれるコメントは2千近くに。またたく間に村上さんのエッセーが中国全土に広がっていった。

AERA 2012年10月15日号