落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「新型」。
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私「お前らさ、話のタネにちょっとうつりに行けよ」
弟子「何のことですか? 師匠……」
私「決まってんだろうが、『新型』だよ!」
不謹慎は目をつぶってください。落語家の会話なんてだいたいこんなかんじ。え、うちの一門だけ?
弟子「いやいやいや……。勘弁してくださいよ!」
私「なんでだよ? 向上心のある弟子だったら『師匠、ちょっとお暇を頂きたいのですが……』『どうした?』『新型ウイルスに罹患して参ります!』ってやりとりが、ひと月前にあってしかるべきだぞ」
弟子「言いませんよ、そんなこと!」
私「だって今のところ芸人で『かかった』奴はいないんだよ。一番先にかからなきゃダメ! 『新型ウイルス漫談』とか『コロナ落語』が出来るかもしれないのに、なんでチャンスを逃してるんだよ! 暇ならいろんな所に飛んでいってかかってこいっ! ボンヤリしてたら誰かに先にかかられちゃうぞっ!」
弟子「師匠だってマスクしてるじゃないですか?」
私「俺はこわいもん」
弟子「なんですか、それ。第一うつったら即入院ですよ。私の仕事はどうしたらいいんですか?」
私「馬鹿野郎、お前の代わりなんかいくらでもいる」
弟子「いるのはわかってますけど! 第一オモテに出られないじゃないですか!?」
私「なら病院内のリサーチをしてこいよ。『看護師さんがきれいだった』とか。『看護師さんが水前寺清子に似ていた』とか……」
弟子「なんですか、そのつまらないリサーチ。それに水前寺って誰ですか?」
私「『ありがとう』だよ!」
弟子「どういたしまして」