年金生活者では所得税率が5%の人も多く、医療費控除を受けても数千円しか戻ってこないこともある。だが、払いすぎた分を取り戻すのは当然の権利。申告することで納税者としての意識も高まる。

 かぜ薬などの薬代も控除できる。17年から始まった「セルフメディケーション税制」(医療費控除の特例)を利用しよう。

 市販薬のうち国が指定した「スイッチOTC医薬品」で、1年間の購入額が計1万2千円を超えた分が控除の対象になる。購入額の限度は10万円なので、10万円引く1万2千円の8万8千円を最大で控除できる。通常の医療費控除のように10万円を超えなくても適用できるので、対象となる家庭は多いはずだ。

 健康維持のための一定の取り組みを行うことが前提なので、健康診断やがん検診などを受けていなければならない。

 対象品目はかぜ薬なら、「パブロンSゴールドW錠」(大正製薬)や「エスタックイブNT」(エスエス製薬)などいろいろ。胃腸薬や肩こり・腰痛の湿布薬、水虫薬や禁煙パッチなどもOKだ。1月28日時点で1787品目ある。

 薬品の外箱に共通のマークがあったり、レシートに「★」などの印が付いていたりする。レシートは原本を保存しておく。ネット通販では証明書類を送ってもらう。

 セルフメディケーション税制と通常の医療費控除の両方は利用できない。どちらを使うか検討してほしい。セルフメディケーション税制は比較的少額から使える利点がある。医療費控除は比較的高額の場合は有利だ。支出に応じて1年ごとに選択を変えることもできる。

「家族全体でかかった医療費の10万円を超える額と、セルフメディケーション税制で控除できる額(上限8万8千円)を比べて高いほうを選びましょう。ネットで試算できるサイトもあります」(前出の黒田さん)

 自分の分はもちろん家族の国民年金や国民健康保険、民間の生命保険の保険料などを払っている場合も控除できる。サラリーマンは年末調整で確認・手続きするが、自営業者や年金生活者らは自分で申告する。

 国民年金や国民健康保険などの社会保険料は、保険料の全額が控除される。個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)の掛け金も全額だ。

 民間の生命保険や介護保険、個人年金保険の保険料は、12年1月以降の「新契約」の場合、それぞれ4万円、3種類の保険の合計で12万円まで控除を受けられる。それより前の「旧契約」は生命保険と個人年金保険が対象で、それぞれ5万円、合計で10万円まで。

 地震保険料は5万円までで、火災保険部分は対象外。

 自然災害の被災者や犯罪の被害者も控除を忘れないように。「雑損控除」として住宅や家財に生じた損害額や、取り壊し・撤去費などの「災害関連支出」が対象だ。

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