このように申告していない年金生活者はたくさんいる。確定申告のメリットは払いすぎた税金を取り戻せるだけではない。課税対象となる所得が減れば、それに連動して住民税も減る。所得の区分が下がると、低所得者向けの様々な支援制度が受けやすくなる。

 ここまで説明してきたように、還付申告や確定申告をすれば、税金を取り戻せるかもしれない。では、どんな人がやるべきなのか具体的に見ていこう。

 まず、高齢者らが該当しそうなのが医療費控除だ。年間10万円を超えた分は、納税額のもとになる所得から差し引ける。家計が同じであれば、妻や子どもらの医療費も合算できる。10万円を超えなくても、年金生活などで所得が少ない場合は対象になる可能性がある。

 税に詳しいファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんは、所得が200万円未満の場合は、所得の5%を上回った分だけ控除が受けられると指摘する。

「収入が年金だけの場合は、所得が200万円を下回る人も多い。例えば所得が100万円の場合は、5万円を超えた分の控除が受けられます。10万円という数字にとらわれずに、その年にかかった医療費を確認するようにしましょう」

 難しいのはどんな医療費が対象になるのか。診療費や薬代のほか、入院の部屋代や食事代、治療のためのマッサージ代などだ。松葉づえや補聴器、通院にかかった交通費も含まれる。

 一方で、自分の都合で払った差額ベッド代などは対象外。疲れを取ったり体調を整えたりする目的のマッサージ代や、体温計の購入費なども同じだ。

「入院時の食事代は控除の対象になりますが、おやつなど自分で買ったものは含まれません。健康診断や人間ドックの費用は対象になりませんが、病気が見つかり治療する場合にはなります。ややこしいものもあるので、迷ったら税務署や税理士らに相談しましょう」(黒田さん)

 介護の費用も医療費控除の対象だ。自宅への訪問看護やリハビリテーション、医師らによる管理・指導などが含まれる。寝たきり時のおむつ代も控除できるが、医師による「おむつ使用証明書」が必要だ。

 医療や介護で支払った領収書や明細書などは、捨てないこと。医療費控除を受けるには税務署に行って申告書を記入するやり方のほか、事前に登録すればネットでもできる。明細書を提出するが、領収書は5年間は保存する。

 どのぐらいの額を取り戻せるのか。仮に医療費が15万円かかったとする。10万円を超える5万円分が所得から控除される。この控除額がそのまま戻ってくるわけではない。課税所得が減り所得税が減った分が戻ってくるので、5万円に所得税率をかける必要がある。

 所得税率は課税所得に応じて決まっていて、課税所得が500万円のサラリーマンだと税率は20%なので、5万円×20%の1万円が戻ってくる。単純化した計算で実際はもっと複雑だが、一つの目安にはなる。

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