※写真はイメージです (Getty Images)
※写真はイメージです (Getty Images)
発達障害の種類  (週刊朝日2020年1月31日号より)
発達障害の種類  (週刊朝日2020年1月31日号より)

 最近、よく聞かれるようになった「発達障害」という言葉。子どもや若い世代の話と捉えられがちだが、シニア世代も例外ではない。実際は発達障害なのに、認知症と誤診される例も見られている。実態に迫った。

【発達障害の種類と特性はこちら】

*  *  *

「お母さん、本当にいい加減にしてよ……」

 東京都在住のA子さん(43)は、やるせなさから、怒りを通り越して涙があふれてきた。原因は実の母(69)。同乗していたバスの車中で、携帯電話を手に、延々と昨日あったことをしゃべり続けている。それも甲高い声で、まくしたてるように。たまらず、前の席の人が「ちょっと静かにしてもらえませんか」と言うと、カッとした母は何と、その人の頭をたたいてこう叫んだ。

「バスはあんたのものじゃない! みんなのものでしょ!」

 母のこんな行動は、今に始まったことではない。近所付き合いや親戚付き合いに始まり、周囲との付き合いがうまくいかない。銀行の窓口やスーパーのレジなどでも、ちょっとしたことでヒステリーになり、よくトラブルを起こしてしまう。そのたびに、A子さんが謝って何とかその場を収めてきた。家の中ではニコニコと穏やかで、A子さんといるときは特に問題はない。昔から本が好きで、本の世界に没頭するあまり、掃除や片付けなどの家事をほとんどしないことは気がかりではあったが、「誰にでも向き不向きがあるから」と、そこまで問題視はしていなかった。

 だが気が付けば、母の周りにはA子さん以外に人がおらず、孤立した状態。実の妹とも、母親の死後の相続時に揉めて絶縁状態になった。A子さんの叔母にあたる母の妹が、最後にぶつけた言葉が忘れられない。

「お姉ちゃんは昔から、人の気持ちがわからない! このままだと周りに誰もいなくなるわよ!」

 発達障害という言葉を聞き、その実態を知って「母の言動の理由はこれかも」とA子さんがピンときたのは、昨年のことだ。母を説き伏せて専門外来に連れていくと、予感は的中した。それでどこか救われた部分もあった。本人の努力次第でどうにかなるものではなく、母自身にとっても、どうしようもない問題だったのだ。治療を受け始めた母に対し、心のわだかまりも少しずつほぐれていったという。

著者プロフィールを見る
松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

松岡かすみの記事一覧はこちら
次のページ