北の富士:遠藤はよくなってきました。うまさに馬力が加わって前に出られるようになっている。貴景勝、朝乃山、遠藤は白鵬に近づいてきました。白鵬の今場所の負け方は尋常じゃありませんでした。


内館:ところで今、断捨離とか終活とかをやる人が多いですが、何かイヤなんです、私。残った人にお任せします。

北の富士:そうですよね。

内館:死んじゃったら何を売ろうが捨てようが壊そうがわからないですから。生きてるうちからそういうことを準備していると、毒気が抜かれるような気がするんです。そもそも北の富士さんから毒気を取ったら何が残りますか(笑)。

北の富士:僕は毒気ないでしょ(笑)。

内館:今も十分ありますよ。毒気、色気。

北の富士:色気だってないですよ。

内館:いやいや、NHK大相撲解説のときだって着物姿で座ると、女性たちの注目度がグワーッと上がると聞いています。あれは自前の着物なんですか?

北の富士:そうですね。普段はジーンズとかラフな格好。スーツもあまり着ませんし、ネクタイもよっぽどのことがないかぎり締めません。だけど今日は内館さんの連載900回記念! 着物もいいかな、と思ったけど寒いから(笑)。

内館:エリート銀行マンが「定年」と向き合って、ジタバタとあらがう様を描いた『終わった人』という小説を書いたのですが、北の富士さんも15歳から角界にいらして、他の人と違う景色を見て、横綱になったわけですよね。でもどこかで「あっ、終わったな」と思って引退する。横綱という頂点まで至って現役をやめる。それってどういう気持ちなのでしょう。

北の富士:実は引退したら相撲協会に残らないで、北海道に帰ってのんびりやるつもりだったんですよ。だけど「もったいないよ。部屋持ちなさいよ」と言われて。でも銀座で全部使っちゃったからお金もない(笑)。まあ押し切られる格好で、「50歳まで」と期限を決めて、十両の一人、二人出たらいいかなぐらいに思って部屋を営んでみたんです。やってみると、意外と楽しかったんです。弟子と苦楽を共にする、というのがですね。金がないから地方場所ではガレージに若い衆とむしろで寝たりね。ちゃんこの材料がないから、川でハゼを釣って天ぷらにして食わせたりもしました。そのうちに弟子たちが強くなって。

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